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第208回通常国会を振り返って②

児童福祉法改正案について
もう一つの第208回通常国会の重要な法案は、児童福祉法改正案でした。児童相談所の嘱託弁護士を務めてきた経験から、日々奮闘する現場のご苦労を思い浮かべながら質問を練りました。質問準備には弁護士や、児童相談所等子どもの福祉の現場で働く方々、子どもアドボケイトを務める方々に多くを学びました。感謝にたえません。

一時保護開始時の司法審査の導入は権利擁護の観点からは必要です。しかし却下された場合の不服申し立て期間が3日。これでは短すぎ、現場が一時保護に萎縮してしまいかねません。児童相談所でも裁判所でも人員が十分確保されるのか、等5月24日の参議院厚生労働委員会で質問しました。厚労省からも最高裁からも、はっきりした回答はありませんでした。

虐待死事件の背景には、業務量の負担があると懸念されます。児童福祉司一人あたりの担当件数を確認するとともに、自治体差や個々の児童福祉司ごとの業務量の差など、調査を求めました。そして「各自治体の裁量に児童福祉司の配置を委ねるのではなく、ナショナルミニマムを設定していただきたい」と要望しました。

まず子どもの意思を尊重するべき。しかし子どもがまだ混乱しているときの思いを機械的に受け取っては、適切でないことがあります。

たとえば、親から虐待を受けていても、それは自分のせいなんだと思いこんでいるために「保護に応じたくない」と言う場合もあります。

子どもが一時保護を希望していない場合であっても、虐待のおそれがあり、必要と児童相談所が認めるときは一時保護ができる、それは変わらないことが答弁で確認されました。

福祉の専門性を高めるのは民間資格の創設?
改正法案に子ども家庭福祉士という新たな資格が設けられました。内容も不明な100時間の研修で取得できるこの民間資格で専門性が身につくものか疑問です。専門性の蓄積を阻むのは、人事異動の頻繁さではないかと指摘しました。

そもそも、児童福祉司の任用要件はパッチワークのように多様なルートです。それを検討しないまままた新たな資格を創設することについて、現場の肯定的な声は聞きません。「必要な能力が100時間の研修でカバーできるわけない」という、自負に裏付けられた現場の声を受け止め、立ち止まるべきではないかと質問しました。厚労省の答弁は煮え切らないものでした。

そもそも多くの自治体では、決して子ども家庭福祉実務者の専門性を保証する体制になっていません。激務の児相は敬遠される傾向にもあるのです。そうした現状でなすべきことは資格創設ではなく、賃金体系など労働条件の保障等も含め、包括的な制度を構想することだと考えます。

意見表明等支援事業について
改正法案の意見表明等支援事業に関しては、条文上明記されていないものの、子どもの支援も目的に入るとの答弁を得ました。また、大臣より、同事業は、子どもの権利条約12条の意見表明権の理念を踏まえ、その趣旨を実現するために運用されていくものとの答弁もいただきました(本来は明記すべきです、と私は付言しました)。

法案6条の3の17項の「意見聴取その他これらの者の状況に応じた適切な方法により把握する」とは曖昧ではないかと質問したところ、「厚労省からは、乳児など意見を述べる能力が未熟な場合であっても、その様子を観察することで酌み取るということも想定している、意見を述べることが可能な子供については、意見聴取が原則となる」との重要な答弁を得ました。

改正法案33条の3の3に「児童の意見又は意向を勘案して」とあるが、勘案ではなく「尊重」とすべきではと述べました。

国連子どもの権利委員会は日本政府に対し、子どもの意見表明権を保障し、子どもの意見を正当に重視するよう促しています。厚労省の答弁では、法律上の用例も踏まえて勘案としたが、児童福祉法2条に児童の意見尊重について規定されており、今回の改正の事業も子どもの意見を尊重する趣旨を実現するためのものとのことでした。その点、十分に発信していただきたいものです。意見表明等支援員について、国が統一基準を示す必要もあります。

6月2日の参考人質疑を踏まえ、6月7日の厚労委員会では、意見表明等支援事業に関連し、「子どもが自分の置かれた状況もわからず不安であったりもする、そのような事情を踏まえて子どもに情報提供等のガイドラインが必要ではないか」と質問したところ、施行までに検討したいとの答弁を得ました。

「意見表明等支援員は子どもからの意見、意向を関係機関等に伝える場合、原則として子どもの同意を得る」との厚労省からの答弁に対しては、「子どもは大人に対してノーを言いにくいもの。形式的にならないようにしてほしい」と要望しました。その懸念も踏まえて検討するとの答弁でした。

一時保護所は児童養護施設とはケアの内容や運営のあり方が基本的に異なります。にもかかわらず、児童養護施設の最低基準が準用されてきたことが、今回の改正で見直されるのは前進です。しかしどのような基準を設けるかは、明らかになっていません。

里親養育委託率の数値目標は子どものためになっているか
里親支援センターを児童福祉施設として位置付ける今回の法改正には意義を認めます。しかし今回の法改正の背景には、里親が様々な困難を抱え、バーンアウトなどに直面していることもあります。

地元でも「里親から養育困難として短期間で断られる子どもがいる、大変傷つきが大きい」と伺ってきましたし、参考人からもその旨の指摘がありました。不調を何度も経験するとさらに傷が深まるそうです。そこで、委託解除総数のうち、里子との関係不調の件数や割合、複数の不調を経験する子どもの状況について質問しました。

しかし、そうした実態について厚生労働省は資料を持っていませんでした。実態把握も不十分で、数値目標だけがあるのです。数値目標ありきの問題点を参考人も指摘していました。

里親養育を推進した「新しい社会的養育ビジョン」を再考する必要があるのではないか、と私は質問を重ねました。里親委託率が高い各国では、フォスターケア・ドリフト問題等が指摘されていることなど、課題は認識し得たにもかかわらず、里親養育を早急に推進してしまったのではないか。里親と里子との間で養子縁組が成立した後で支援が困難になる場合もあります。

「新しい社会的養育ビジョン」を問い直す
社会的養育を経験した参考人が、「どれだけの子が自分で施設や里親を選べたか」と指摘しました。子どもの意見がかえりみられなかったことへの鋭い問題提起です。

虐待されて家庭生活そのものに拒否感がある子どももいますし、年長の子どもは里親より施設を希望する場合が多いとも言います。今回の法改正により、入所措置や里親委託等の際に児童相談所等が子どもの意見聴取等を行わなければならないとされました。丁寧に意見を聴取できるように子どもが安心できる環境を準備しなくてはいけません。

「新しい社会的養育ビジョン」では、里親が見ることができない困難な子どもをケアする治療的役割を施設に求めました。それが合理的なのかも改めて問われなければならないでしょう。困難な子どものケアを集中的に担うならば職員の配置基準を考慮しなければならないはずなのに、職員の安定的雇用や労働環境について言及がありません。子どもたちの安定的な環境のために重要な、こうした課題を見落としていたことは問題だと指摘しました。

施設の小規模化、ケアリーバーの問題
そもそも小規模化の推進自体、問題も指摘されています。宿直や一人勤務など、職員の方たちが孤立化し、研修に行くのもままならない、また煮詰まって子どもも職員もストレスが増えてしまう状況にあるケースも聞いています。それが職員の早期退職にもつながっています。そうした現状認識と対応についても質問しました。

ケアリーバー(施設退所者)への支援についても取り上げました。児童自立支援生活援助事業の年齢要検討の弾力化は前進です。しかし児童相談所としては、その関与すべき範囲、何ができるかを明確化してもらわないと、現場が混乱するという声を伝えました。

また、ケアリーバー当事者は日々の生活でいっぱいいっぱいで、拠点に赴くことも厳しい場合があるとの参考人のご指摘を踏まえて、アウトリーチ型、伴走型支援の必要性を指摘しました。

親子再統合後に兄が妹を暴行し殺害してしまった滋賀の事件等を思い起こせば、親子再統合は慎重を期す必要があります。安直にすすめて子どもの福祉が顧みられないことにならないよう、注意していきたいと思います。

(つづきます)