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第211回通常国会を振り返って④

入管法

国会が若者たちの夢を砕く

6月9日、入管法改定案が参議院本会議で可決されました。
採決時に立ち上がる圧倒的多数の議員たちを見渡しながら、私は涙が止まりませんでした。

審議と並行して連日のように、野党国対ヒアリング等で有識者や当事者からお話を伺いました。来てくださった皆様に感謝します。
とりわけ、切実な思いを伝えてくれた子どもたち、若い人たち
私たちに期待して、あんなに心をこめて話してくれたのに。力不足で申し訳ない。

ヒアリングに来てくださったクルド人の大学生アランさんが言いました。
「人間は誰でも基本的人権があると高校で学んだ。(僕は人間ではないのか)と思った。人権が認められていないのだから」

私は「そんなことはありません。もちろん、あなたの人権も尊重されます。」と言いたかった。
そう励ませる社会であるべきなのに、そうではない現実。それでもアランさんは「人権が侵害されている人々を救う仕事がしたい」と前を向きます。
他の皆さんも「助産師になりたい」「スポーツ選手になりたい」と志を語りました。やりたいことを一所懸命やって、家族を支え、日本を支えたいと。
若者の夢を後押しせず、封じ込める。残酷です。私事ですが私の子どもは大学4年生。同じようにこの社会で育ってきたのに、就活さえできないとは。

ある高校生は在留資格のない不安から授業に出られなくなりました。ある日ふと図書室に足が向き、何冊も本を読んだなかに、ブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー』がありました。励まされ「私も、孤立し痛めつけられた人を励ます、そんな文章を書く仕事がしたいです」と思ったそうです。

日本で生まれ、育ち、日本語しか話せない若い人たちを絶望させる。
それが大人の、政治のすることでしょうか。

「こどもまんなか」は本気ですか?

とりわけ私が解せないのは、子ども家庭庁設置法案やこども基本法を後押しし「こどもまんなか社会の実現へ!」などと高らかにおっしゃっていた与党議員たち 。さらに、この法案に賛成した野党の議員に「子どもの虐待を防ぐことがライフワーク」とニコニコ語っていた方もいます。

子どもを幸せにしたいと言う。なのに日本で生まれ育ち、いまここにいる子どもたちの苦悩を受け止めない。
「この子の人権は保障するけど、この子はだめ」と線引きするのですか。

「弁護士に必要なものは想像力だ」。
先輩弁護士の言葉です。
いま私は、議員にも想像力が必要だと思っています。もっとも弱い立場にいる人のことを頭から外して「党の方針だから」と粛々と従う。
それで「こどもまんなか」?
  
「周囲の友だちはどんな声がけをしてくれますか」というヒアリングでの質問に「友だちには言っていない。『在留資格がないなら帰れば』と言われるんじゃないかと思って」という答えがありました。
親しい友人にも事情を話せない。部活の遠征に行けず怪訝な顔をされる。
差別や排除を恐れながら成長する子どもたちがいるのです。
制度を改め、一人一人を尊重する政治にしたいと、心から思います。

国際人権基準に背を向けた入管法

入管法改定案は、国際人権法・人権基準に沿っていません。
2021年に政府が成立を断念した入管法案(旧法案)の骨格を維持したまま再提出したものです。
難民認定申請により送還停止の対象とされるのは原則2回まで、3回目以降の申請者は送還可能とする、という内容です。 
保護すべき人を確実に保護するための手続きなのに、その課題に背を向け、数々の人権侵害を反省することなく、再発防止へ体制を整える意欲も見られません 。

昨年11月3日、国連の自由権規約委員会は、第7回日本政府審査の総括所見を公表しました。2017年から2021年にかけて3人の被収容者が死亡した入管収容施設の劣悪な処遇を懸念し、国際基準に沿った包括的な難民保護法の整備、適切な医療など収容施設の処遇改善、仮放免者への支援と収入確保の機会設定を検討することなどを勧告する内容です。

不名誉なことに、国連人権理事会の特別報告者らから「国内法制を国際人権法の下での日本の義務に沿うものにするため、改正法案を徹底的に見直す」ことを求める共同書簡を送付されました。命と尊厳を守ろうとしない従前の制度をさらに人権尊重から遠ざける法案であると指摘され、入管法改定案が国際人権基準を満たしていないと見直しを求められたのです。
ところが政府は、「一方的な公表に抗議する」とけんか腰 。
日本政府はこうした未熟な対応を繰り返しています。L G B T理解後退法ともいうべき「理解増進法案」にも頑なさはあらわでした。国際社会で特異な姿勢をとり続ければ、日本に対する信頼が失墜してしまいます。

ブラックボックスの難民審査参与員制度

入管庁は「自身が担当した難民申請の不服申立手続では難民はほとんどいなかった」という難民審査参与員の発言を改正案の根拠としました。 
しかしこの参与員が、2021~2022年の2年で計2609件、2022年は全件の4分の1以上を年間32日の勤務日数で処理していた事実が判明。
一方で他の参与員(弁護士、研究者)には年間1〜3件しか配分されていない不思議な偏りも明らかになり、「入管庁は不認定の結論を出してくれる参与員ばかりに重点配分している」との指摘もありました。
これで難民認定手続が適正に行われているとは到底思えません。

また政府は、大阪出入国在留管理局における常勤医師の確保等をあげて「入管の医療体制はウイシュマさんの死亡事件以後改善されている」と説明していました。
しかし、昨年7月に着任した同局の常勤医師は今年1月に酒酔い状態で勤務し、それ以降は医療業務を行っていません。その報告は入管庁内で1月に共有されていましたが、報道されるまで国会で明らかにされませんでした。衆議院で可決された時には知らされていなかったのです!

医療体制の改善もまったくの嘘。改正法案の根拠があやしいのに、人権無視の法制を成立させてしまった国会。悔しい。
話を聞かせてくれた子どもたち、若者たちを思い「ごめんなさい。まっとうな政治をする仲間を増やしたい。選挙、頑張ります」と涙しながら決意しました。

人権侵害を防ぐ野党案を提出

野党に対して「反対ばかり言うな、対案をだせ」なる謎ツッコミがありますが(「野党は批判ばかり」に応える川内博史さんへのインタビューはこちら)、立憲民主党らは6月6日、難民保護法案、入管法改定案 を参議院に提出しています。

難民認定を独立性・専門性を持つ第三者委員会が行い認定手続を透明・適正にする。入管への収容は司法審査に基づき、期間の上限を定める。
悪名高い全件収容主義、無期収容主義を改める法案でした。
この案なら、人権侵害を防止し、個人の尊厳を尊重する、憲法にも国際人権基準にも沿った制度が実現します。
しかし、この法案が採決にかけられることはありませんでした。

「からかいの政治学」に負けるもんか

同じ会派の仲間たちは、連日、頑張りました。本会議での代表質問委員長解任決議案(以上牧山ひろえ議員)、大臣問責決議案の趣旨説明(石橋通宏議員)、反対討論(石川大我議員)。
本会議場で聞いていて、胸が熱くなりました。

しかし、筋の通った熱意ある訴えに、本会議場では「おお、こわっ。怒ってる怒ってる(笑)」「はああ?(笑)」。
会派で決められたことに何も考えず従う議員たちからの嘲笑は、良心の呵責を感じないための防衛機制なのでしょうか。ハンナ・アーレントのいう「凡庸な悪」でしょうか。
フェミニズムに向けられた「からかい」が、その主張を「取るに足らないもの」として否定する政治的行為であったことを思いました(からかいの政治学についてはこちら)。

制度に苦しめられる人のことを想像から排除し、まじめな議論を嘲笑し、数の力がものを言う。これが国会の現実です。

失望させてしまった子どもたち若者たちに詫びたい。その思いは、政治をまっとうなものにする仲間たちを増やすエネルギーにしたい。
うずくまっていても何もならないのだから。

希望はあります。
新潟市内で、たった一人で入管法改悪反対のスタンディングをしてくださった方がいるとTwitterで知りました。
なんと素晴らしい勇気。
国会前にも全国各地でも、たくさんの人が連日声を上げてくださった。
そんな勇気を振り絞ってくれた人たちと連帯して、頑張りたいです。

(2023年7月17日)→第1回へ