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第2回

vol.6_110歳の映画館から<まちづくり>を仕掛ける,打越、聴きにいく上野迪音さん_「高田世界館」支配人vol.6_110歳の映画館から<まちづくり>を仕掛ける,打越、聴きにいく

すでに削られつつあった「映画館で映画を観る習慣」を、コロナ禍の2年は大きく奪っていきました。

高田世界館の経営もきびしさを増すなかで、上野さんは地域や映画業界にむけて、いろいろな角度から行動しています。

映画館はまちの<うつわ>

うちの大学生の息子も、映画の勉強をしているくせに、iPadなんかで平気で映画を観ています。「映画は映画館で見てこそ! それも高田世界館のような日常と違う空間で観るのが最高」ということを、どうしたらわかってもらえるのか。

上野そこは大事ですね。世界館という場所で見ることに価値を見出してくださっているのは、もしかしたら地元より市外の方かもしれません。以前は、週末には全国から熱心なお客さんが訪れてくださいました。

そうした外からの入場ががくっと落ちたのがこの2年です。もちろんコロナの前から集客はきびしかった。もう少し地元でそうした価値を共有できていれば、平日の集客も助かっていたでしょう。そのへんはもっとアピールが必要だったと思います。

大きな映画館では見られない上質なラインナップです。上野さんのセレクトを信頼して来る固定客もいるんでしょうか。

上野ありがたいことに何割かはいらっしゃいます。でもそれは一部なので。「公器」という言葉がありますが、僕は、映画館は「うつわ」だと思っています。僕のセレクトの幅は広くないし、重いといえば重いかもしれない。もう少しゆるい、「話題になってるから行ってみようかな」くらいの、気軽な映画体験ができる場所でもいいかなという気がしています。セレクトした作品だけで成立するのは映画ファンが多い都市部の映画館で、ここはそうなってはいけないと思います。

でも「いや、これいい映画なんだよ。観てよ!」とか、思いませんか。

上野まあ、そうなんですけど(笑)。ただ映画って押しつけられて観るもんじゃないし。『北風と太陽』で言えば太陽のやり方で。

上野廸音さんと打越さく良。

 <まちづくり>にいいことなら映画でなくても

政治にも似たようなところがあります。私はつい「これ、すごくいい政策なのに、どうしてわかってくれないの? わからない人ってどうなの?」とか思ってしまって、「いや、そういう考え方は民主主義ではない」と自戒したりして。そのへん、せめぎあいます。

上野その葛藤はコロナの前から経ているので、もう割りきっています。わかってもらえなければ、もう少しすそ野の広い映画も提示しようと。映画を楽しんでもらうことが一番の目的なので。

あと高田世界館のいいところは、ステージがあって音楽や落語などいろいろなイベントができることです。きのうは浪曲の会がありました。映画館の前の広場も市が整備してくれて、フリーマーケットを何度かやっています。映画とは関係なくても、コミュニティにとっていいことです。

もともとやりたかった「まちづくり」は、映画以外でも実現できるなとは感じています。芸術、文化になかなか踏み込めない方もいますから、それぞれが自分の好きな部分で楽しんでもらえれば、それはそれでいい。

そうかー。

上野趣味が多様化している時代なので、そこは文化文化とがんばってもしょうがない。
現実として「映画館では食えない」ことは、受け入れざるをえません。映画館を生きながらえさせるためにも、音楽イベントや観光ツアーで収益をあげることが必要です。でも赤字だからといって映画上映をやめれば「日本最古の現役映画館」ではない。ここの物語の魅力は半減してしまうでしょう。

高田世界館の看板。

文化財のメンテナンスは切実

日本最古の映画館として成り立たせるためには、メンテナンスもお金がかかりますよね。

上野もちろんです。雨漏りもしますから。

雨漏り!

上野やばいですよ。現在進行形で起きてます。「変なところから水出てる!」みたいな。でも全面改修したらウン千万かかる。

ひゃー。2011年に国の登録有形文化財になっていますが、それで何かお金はもらえるんですか。

上野お金はもらえません。レリーフがもらえます(笑)。

あ、そういうことなんですか。毎年いくらかとかは。

上野ないです。ただ寄付を募ったり、観光ツアーの営業をしたいする時に「ここは国の文化財で」と言える。

そうなると、なおさらちゃんとメンテナンスしないとならないですね。

上野観光客のお客さんも増えているので、安全面からも手入れしなければと、切実に。

でもコロナ禍で観光客は来ますか。

上野県内版GO TOがあったりすると、わりと来てもらえます。月に200人くらい来てくれるだけでありがたいです。

映画も観てくれますか。

上野映画は観ないです。現代社会において2時間使うという贅沢はなかなか。建物を僕がガイドするんです。企画、映写から街あるきガイドまで、なんでもやります。

上野廸音さん。

補助金は誰を救うのか

コロナ禍で文化庁が補助金を出しました。新たな事業を企画すればもらえる補助金だったので、企画する力が残ってないところは使えない、という批判も聞きました。

上野その点は、映画館はわりにハードルが低かったです。企画には困らなかった。困ったのは、消費税分を負担させられたことです。

ん? 消費税分を負担とは?

上野たとえば補助金を使って10万円で演者さんに公演をお願いする。その時消費税分1万円をつけてお支払いするのですが、その1万円はうちが負担するということです。600万円の事業だと60万円を負担しなきゃならない。その消費税分が積みあがっちゃって大変なことになってます。結局、利益にならない。

それと、補助金の審査がめちゃくちゃ遅かった。それであきらめた人もいます。12月までに事業を終わらせるという条件で、9月に申請を締め切って、審査結果が出たのは11月。1カ月でできるわけないよ! という。せめて期限を3月の年度末にしてくれれば、助かるところはたくさんあったと思います。

高田世界館。

配給会社や酒屋には支援が回らない

この前こちらに伺った時は難民映画特集をされていて、私も『東京クルド』を観ました。ああいう特集にどれくらいの人が来るものですか。

上野いやもう少なくて、大変でした。一般市民で難民問題に関心のある人は少ないですから。

やっぱりそうですか。私もちょっと不安でした。

上野じつを言うと、あれは配給会社支援を考えて企画したんです。コロナ禍で映画館には補助金や寄付、クラウドファンディングなどの支援がありました。しかし配給会社には何もなかった。飲食店には支援が集まっても酒屋さんにはないのと一緒です。

だから今回、補助金を配給会社さんに回そうと思ったんです。5社から1作品ずつ、15万円の予算を組んでお渡しすることができました。喜んでくださるところもありましたが、うちはチケット収入だけなので儲からない。しかも消費税分はうちの負担なので「きゃー!」という(笑)。

(つづきます)→第3回へ

映画フィルムを手にする上野さん。

上野迪音(うえの・みちなり)
1987年、新潟県上越市生まれ。高田高校から横浜国立大学教育人間科学部マルチメディア文化専攻へ進み、梅本洋一ゼミで映画論を学ぶ。2014年、日本最古級の映画館・高田世界館の支配人に就任し、映画のセレクト、映写、もぎり、広報、掃除、イベント企画等あらゆる業務をおこなう。2児の父。高校時代はテニス部。