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第3回

vol.3_木の仕事で地域をよりよくしたい,打越、聴きにいく菅原保さん_大川屋製材所社長vol.3_木の仕事で地域をよりよくしたい,打越、聴きにいく

2021年、コロナ禍に端を発した「ウッドショック」が住宅業界を襲いました。
著しい木材不足、価格高騰。
契約したのに家が建てられない状況が現実に。
輸入材に頼ってきた日本でにわかに国産材の需要が高まったものの、そう都合よく対応できるわけではありません。
菅原保さんの大川屋製材所もフル稼働していますが、追いつかないと言います。流通量が多く、均一な品質のものが手ごろに入手できる輸入材は、ハウスメーカーの均一な家づくりを支えてきました。

「日本人は考え直す時なのかなと思います」

国産材を安定供給が可能な成長産業にする即効薬はあるのでしょうか。
菅原さんは、人びとの価値観をコツコツなにかでノックし続けようとしています。
木と向き合い、人に会い、小さな会社から地域をよりよくする手立てを考え続けます。

良質な地元の木で統一感のある街並みをつくる

村上市は市民による町屋再生プロジェクトで、伝統を感じさせる美しい街並みが整いつつあります。大川屋さんもこれに関わっているのですか。

菅原古建築研究会という団体に属して、外観整備や古きよきものを残す取り組みに参加しています。町屋再生プロジェクト、黒塀プロジェクトで村上に観光客が訪れるようになり、市民も街並みの価値を再発見しました。

風情のある景観がそのまま地元材のショールームにもなりますね。住宅用木材に関してはどう取り組んでいますか。

菅原木材の品質に関してはきびしくしています。木は山の顔なので、林業の方たちに恥じない製品を出していかなきゃいけない。木は生き物で、製材するとくせが出ます。立木だった状態を保とうと曲がったりねじれたりする。そこを読んで、なるべくまっすぐになるように製材の仕方を考え、品質、寸法や乾燥度合いに気をつけています。

木材は乾燥が大事だそうですね。

菅原うちはほとんど天然乾燥です。使う場所によっては人工乾燥もあります。天然乾燥は数値としては人工乾燥に劣りますが、粘り気があり、雪の重みに耐え、雪解けにはもとに戻るイメージです。人工乾燥は強度が出ますが、ぽきっと折れる感じですね。人工乾燥も技術が進んでいるので一概には言えませんが。
乾燥期間は、2、3カ月のもの、2年かかるもの、いろいろです。細胞壁にくっついた水分がなかなか抜けきらないので、その見きわめに気をつけています。

いま従業員の方は何名いらっしゃいますか。

菅原4名です。

積まれた材木を見る打越さく良

人手不足は業界の課題

製材業は人手が足りない世界なんですか。

菅原はい、人手が足りない世界です。新卒採用説明会に参加したり、ハローワークに求人を出したり、いろいろ試みているんですが。去年は動画も作りましたが、私の伝える力が足りないのか……。林業は一次産業なので、県や市もお金を出して採用に力を入れる。大工さんを育成する職業訓練校もある。でも製材業という中間のポジションに対する支援はないんですよね。

「林業女子」という言葉もあり、林業で活躍する女性が話題です。朝ドラの主人公も森林組合に就職しました。

菅原だったら「製材女子」がいてもいいんじゃないかと思うんですよ。いまは機械化しているので、昔みたいな「材木屋は力がなければだめだ」みたいなことはないですし。

でも女性はあまりいないんですか。

菅原うーん、聞かないですね。そもそも、いま製材業がどんどん少なくなって、目に触れない業種になっている。製材業と言われてもイメージがわかないですよね。なにか体験型のイベントを考えようと思っているんですが。

中学生の職場体験は受け入れていますか。

菅原ぜひ来てくれと学校に伝えてはいるんです。今年の3月、中学生が見学に来てくれました。発表会があって、学んだことを手書きの新聞にまとめて立派にプレゼンしてました。うれしいですよね。子供たちにも「10年後遊びに来てください、うちで働いてみませんか」なんて言ってきたんですけど。

それでもすぐ来てくれるわけではない。中学生だから。

菅原中途採用か、機械を入れ替えて二人でやっていた作業を一人でできるようにするか。それで当面はしのぐしかないかなと思っています。

製材所内

木も人間も、同じものがないから面白い

製材の仕事の面白さはどういうところにあるんでしょう。

菅原木って、人間と同じで、同じものがないんです。なので、同じ製材はできない。それが面白いところです。くせの強い個性的なのもいれば、素直なのもいる。面白いのもいる。ほんと、人間と同じですよね。製材は、いろんな人との会話みたいです。人間の世界と木の世界は重なりあう。だから木とつきあうことで、それぞれの人間を尊重しないといけないよね、と自然に思えてきます。障がい者と一緒に事業をしているのも、そこからつながってきたのかな。

じつは農林水産省や林野庁の人とお話ししていると、輸入木材は安いというよりも、むしろ均一化していることが利点なのだとおっしゃるんです。国産材はばらつきがあるから使い勝手がよくない、個性がないほうが使いやすい。個性を面白いというよりも、大量の均一化されたものを輸入して使っちゃったほうが楽、という考え方。
今度会ったら言っときますよ。「日本の林野庁がそういうこと言っててどうする」と。

菅原ぜひ言ってください。特に杉なんかはくせが強いというか、やわらかくて加工しやすいのもあって、扱いが難しいんですね。それを加工できる大工さんは、正直いま少ないです。加工されたものを組み立てる仕事しか経験できず、木をよく知らない大工さんが増えている。
昔の大工さんは、木を知っていた。木のくせを見抜いて、現場で加工して、素材を生かす技術があったんです。手間をなくして安いものを提供するのも大事かもしれませんが、変わらなきゃいけないところと、守るべきところが、あると思うんですよね。

環境保全にも関わります。

菅原いまさらですが私、SDGsを勉強し始めて。あれって、本当に製材業と直結しているなと思いました。一人一人の人間を尊重する。ジェンダー、教育、健康、すべてのことがつながっている。地域の問題は地球の問題だし、経済だけ優先すれば結局経済も循環しなくなる。

ウッドショックで見えた輸入頼みのあやうさ

菅原いま、ウッドショックと言われる大変な木材不足に陥っています。外国の木がとにかく入ってこない。

コロナの影響で。

菅原アメリカと中国が景気回復して木材需要が飛躍的に増えました。さらにコンテナ不足で、木材の価格が急騰し、材料がなくて家が建たない。困るのは市民です。それだけ外国に依存していたということなんです。うちも生産が間に合わない状態です。
なんとか役に立ちたいと思うんですが、製材機や人工乾燥機を入れたりすれば設備費は1000万以上かかる。人手も設備も足りない。それを補助してくれる仕組みはないんです。

国産材の需要が急に高まっても、供給は簡単に増やせない。

菅原輸入の規格品で手間をかけずに建ててきたことが裏目に出たなと。日本人は考え直す時なのかなと思います。国産材を使って、在来工法で建てるのがやはり間違いないんじゃないか。その技術、文化は継承していかないと。

林業再生のために官公庁や学校など公共建築物が率先して国産材を使おうという取り組みも始まっているんですが、あまり聞かないですか。

菅原うーん、どうでしょう。掛け声は聞きます。新潟県は県産材の生産量25万㎥という目標を掲げています。でも公共建築物で国産材が十分に使われているかどうか。
たとえば公共施設を建てる時に、県産材をよく知らない建築家は『強度が足りない』と判断して輸入材を指定するかもしれません。その時に県の担当者が木材業者に聞いてくれれば「いや、杉はこう使えば強いんですよ」「こうしたらどうですか」と提案ができる。地元の業者、現場の声を聴いてくれれば、もっと県産材が生かせるんじゃないかと思うんですよ。

なかなか現実はそうなっていないんでしょうか。

菅原くじけずに発言していくつもりです。「行政は行政、民間は民間」ではなくて、一緒に手をつないで地域をよくする仕組みを作れればいいなあと思います。

製材所に立つ菅原さん

関係なさそうな出会いがアイデアを生む

今後の企画として、どんな新商品をお考えですか。

菅原一人を楽しむ木の空間を提供していきたいと考えています。村上の杉で、小さな小屋を作るんですよ。その小屋の中で、焚きスギで薪ストーブに火を入れて、コーヒーを飲みながら自分の時間を楽しむ。オプションでサウナを作って、一人サウナでくつろぐ。そんな空間にしたいなと。

おお、ごくらくごくらく。

菅原今コロナだから、そういう需要があるんじゃないかなと思っていまして。

豊かなステイホームの時間。ぜひ実現させてほしいです。

菅原三条のストーブ屋さんとコラボして、やっていきたいなと。

次から次へとアイデアが。どうやって考えるんですか。本を読むとか?

菅原そういうわけじゃないです。いろんな人と会って話を聞くと、これがあったらいいな、あれがあったらいいなと浮かんでくる。出会いが多いのかな。関係のないような出会いが、めぐりめぐってどこかでつながる。それが多いような気がします。

出会おうとしないと出会えないですよね。

菅原だから私は出かけて行くんです。もしかしたら、人には恵まれてるのかもしれません。

(おわります)

〔2021年5月〕

菅原保さんと打越さく良

インタビューを終えて■打越さく良

村上杉の「むすび箸」を使っている。職人の方々のこだわりが詰まったシンプルなお箸を使いながら、日々静かな感動を覚える。お世辞ではなく、なんだか食べ物が以前より美味しい。
ネット販売はあえてしない、楽しい作業で工賃アップ地元に根差すことを一貫して考え、実践する菅原さんは、アイデアが豊富でお話が尽きない。
追求するものが「いまここ」の利益だけではないから、SDGsという横文字も、すでに取り組んでいる身近な課題だと腑に落ちるのだろう。
「木って、人間と同じで、同じものがないんです。だから木とつきあうことで、それぞれの人間を尊重しないといけないよね、と自然に思えてきます」。
この名文句、林野庁に伝えなくては。

家の前に立つ菅原さん

菅原保(すがわら・たもつ)
1987年、新潟県村上市生まれ。中学高校時代はバスケットボール部。
県内の大学で経営情報学を学んだのち、銀行勤務を経て家業の大川屋製材所に入る。
2021年1月より同社代表取締役社長。趣味はジョギング、家族や従業員と楽しむバーベキュー。
大川屋製材所