第2回
暮らしをささえるために奮闘する衆議院議員の西村智奈美さんは、4歳児のお母さんでもあります。
子育てまっさかりの議員は、いまの政界でどのように活動しているのでしょうか。
国会議員の休日は?
議員の仕事って、休日がないじゃないですか。自分で作れば作れるんだけど。優雅な議員と、がむしゃらに働き続ける議員、二極化してるような。
西村おっしゃる通り、この仕事って楽しようと思えばいくらでも楽できるし、仕事しようと思えばいくらでも仕事できる。打越さんに申し上げたいのは、まずは健康第一、そこをちゃんと。
—は、はい。
西村私の場合、休みは不規則なんですが、子どもの行事がある日の前後で休みをとったりします。
—お子さんができる前はどうでしたか。
西村その前は全然休みを取らなかった(笑)。
—やっぱり。
西村衆議院議員になりたての頃、日程調整がヘタで、ひどい時は東京と新潟を1日2往復半したことがあります(笑)。今だったらそんなことしないけど。
てくてく地元を歩いて懇談会
スケジュールびっしりでも、支持してくださる方たちに挨拶するので精いっぱいで、なかなか他の方の声を聴くことが難しくありませんか。
西村私ね、一番地元の声が聴けたのは、落選していた2年間かな。あの時はすごく歩いた。「お茶のみ懇談会」というのを週1くらいでやってたんです。チラシ作って、自分で地図持って、会場周辺の家1000軒くらい、配って回る。
新潟にずっといて時間があるから、いろんな人の声が聴けて、「これを早く国会に戻って伝えたいな」という気持ちがずっと積み重なっていくんです。
—チラシを配ると、皆さんが懇談会に来てくださるんですか。
西村蓋を開けてみないと何名来てくださるかわからないんですけど。
—全然来ない時もありましたか。
西村あのね、一番少ない時で1人(笑)。平均すると7、8人。10何人で「今日いっぱい来てくださったな」という感じです。手伝ってくださる方がいると30人くらいになる。2人という時もあって、その時は「またここでやってください」と言われました。
—へえ。
西村「次はもう1人ずつ連れてきますから」って。それで、2人が次は4人になる。そんな感じ。
地道に積み重ねて少しでもいい方向に
落選した時に、「もうこれでやめよう」とは思いませんでしたか。
西村直後は放心状態ですよね。だけどしばらく経つと、「よしもう1回」と。
—そこであきらめなかったのはどうしてなんだろう。こんなに大変なのに。
西村やっぱり、やりがいがあるんですよ。委員会で大臣や総理大臣に質問する。法案作って提出する。そうやって、社会を少しでもよくしていく。
私たち野党が提出した法案は、そのままでは絶対に通らないけれど、与党からも何か考えが出てくれば、そこで修正して成立させたりすることもできるし、委員会で質問して通達が改善されたりもするから。
—派手なパフォーマンスだけじゃなくて、通達をちょっとずつ改善したり、地道なことの積み重ねが重要なんですよね。それが人の暮らしに大きく関わっている。
西村最近では、職域接種でワクチンを接種しなかった人への不利益が生じないように、という通達を出してもらいました。ひとつひとつ、やっていきます。
—西村さんは超党派の議員立法にもよく携わっていますね。
西村去年成立した労働者協同組合法も、ずっとやっていました。
—何年もかかって、最後は与党の手柄みたいになりましたが、最初は西村さんたちですね。最近残念だったのはLGBT法案です。
西村あれは本当に残念でした。超党派で法案をまとめたのに、自民党の反対で提出されなかった。自民党は稲田朋美さんが法案修正担当。野党側は私が担当になって、2人でずいぶん話し合ったんです。当事者団体の人たちも、たぶん言いたいことをこらえて修正した合意案を受け入れてくださった。なのに、あれでも成立しない。
—そんなふうに、くやしいことがあっても、前に進めるため与党の人とも協力して調整していく役回りが、西村さんは多いですよね。
西村そうですね。なんでだろう。
政権の中で見えるもの
西村さんは民主党政権で政府の経験があります。野党の立場と政府・与党の中にいるのとでは、見えるものが大きく違いますか。
西村まったく違います。情報量が全然違う。野党のヒアリングで、官僚はたぶん知ってることの0.5パーセントくらいしか喋ってないです。
—くー、やっぱりそうか。外務大臣政務官の時はどんな感じでしたか。
西村感じたのは、やはり外務省は日米安保条約最優先、絶対視しているということ。でも一方で「政権の方針がちゃんとしてたら交渉はできますよ」というところもあるんです。アメリカは何よりも民主主義の国だから。政権交代すれば政策はがらっと変わるし。だから、ブレるのはよくないです。
—その後は外交ではなく厚生労働に集中してお仕事されていました。
西村初当選の時から子ども政策や女性の労働政策に取り組んでいました。男女雇用機会均等法やパート労働法の改正を一緒にやっていた小宮山洋子さんが厚生労働大臣になり、藤田一枝さんは先に政務官になっていて、そこへ私が副大臣になって。
—3人チームがそろった。
西村それで厚労省内に若手チームを作り、練りあげたのが「働く『なでしこ』大作戦」です。この名称も省内の若手のアイデアで、正式には「『女性の活躍による経済活性化』行動計画」。部分的に後の「女性活躍推進」につながるんですが。
省庁再編は特効薬か
感染症禍で、厚労省の官僚たちは疲れきってる感じがします。いま省庁再編がさかんに言われて、厚生労働省分割案も出ていますが。
西村うまくいかないからって、組織を変えるというのはどうなのかなと。たとえばプロジェクト方式でできることもある。厚生労働省で働き方と子どもの関係を一体化して見られるのは利点だと思いますし。
—「こども庁」を創設するとか。
西村「こども庁」が悪いとは言いませんが、子どもだけじゃなくてその成育環境などを含めて考えるべきで、もう少し広めにとった方がいいと思いますね。
—オンブッドという、子どもの権利救済のための独立監視機関を作ろうという提言が、昔ありましたよね。
西村そう、10年以上前。その話は出てこない。
—そういう実質的な話が出なくて省庁をいじる話になる。なんなんだろう。
子育て中の国会議員として
ところで、お子さんは今おいくつですか。
西村4歳です。
—政治家は夜のおつきあいも多い仕事ですが、子どもがいると難しいですよね。
西村時間の使い方はすっかり変わりました。昼間集中して仕事して早く帰り、子どもを寝かしつけてからまた仕事します。たぶん世間のお母さんお父さんも、工夫されてるだろうと思います。
—永田町にいる時と新潟にいる時でも違いますよね。
西村国会開会中の平日は、東京の認可外保育施設に行きます。議員会館の保育園に落ちてしまって。週末と国会閉会中は、新潟の幼稚園型こども園に。国会議員は産休育休の規定もないんですが、出産の時は民間並みにと思って2カ月産休を取りました。
—議員のなかでは長いほうなんですよね、2カ月は。
西村そうですよ。息子は生後2カ月から、本当に大勢の人のお世話になりながら生活しています。ベビーシッターさん、ファミリーサポート、保育園・幼稚園の先生、私の親や弟夫婦、時には支持者の方にも面倒みてもらって。
—お連れあいはいま県外だし。お子さんが大きくなると、どちらを拠点にするかという問題が出てきます。
西村そうなんです。小学校をどうしようというのが目下の悩みです。
—国会議員が子育てや介護をすることは、日本で長らく想定されていなかった。
西村だから、ぜひ多くの女性に議員になってほしいと思うんだけど、自分と同じような環境の人に勧められるかというと……。
—国会の予定は突然決まる。ベビーシッター代もかさむ。永田町と地元との二重生活、ドブ板選挙……困ったな、「女性よ、どんどん政治に参加しよう」という話にまとめたいのに。
女性議員を増やすには
西村「旧来型の選挙スタイルを脱して、女性の視点でやりたいことや成果を訴えれば?」と言う政治学者もいるけど。
—訴えてはいるんだけど。
西村やっぱり「顔が見えない」とか。
—「こっち回ってこないのか」とか。
西村相手候補と比べられたりするわけですよ。それに顔を見たことのある人と見たことがない人、どっちに投票しやすいかと言えば、やっぱり顔を見たことがある人だと思うし。
—私は「根性」が好きなメンタルで、昔ながらの選挙も「やったる!」と燃えますが、それを人には押しつけるのは違うし。まっとうな女性議員を増やすにはどうしたらいいのかな。
西村参議院の女性は20.9パーセント衆議院はその半分以下、9.9パーセント。
—女性議員が増えると政治が変わるという実感はありますか。
西村ありますよ。3割になればだいぶ変わると思う。だから参議院がもう一歩増えて、「参議院変わったよね」となれば、衆議院も変わっていくかなあと。選挙制度の違いもあって、難しいですが。
—議員のワークライフバランスもなんとかしないと。反省。議員も生活者。
西村私も、うちに帰って子どもの顔見ると、疲れも吹き飛んで「明日もがんばろう」と思えるもの。夕ご飯食べながら息子に「かあちゃんもさ、いろいろあるんだよ」なんてぼやいたり。
—息子さんは聞いてくれますか。
西村きょとんとしてます(笑)。
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西村智奈美(にしむら・ちなみ)
1967年、新潟県燕市(旧吉田町)生まれ。新潟大学大学院法学研究科修士修了。大学や専修学校で教壇に立ちながら新潟国際ボランティアセンターの事務局長を務める。タイ、英国に留学し、訪れた国は36カ国。99年、新潟県議会議員に当選。2003年、衆議院議員初当選(新潟1区)。40歳で結婚、49歳で出産し子育て奮闘中。高校・大学では弓道部。