第2回
自立をめざして取り組む仕事の多くは、玉木さんが体当たり営業で獲得してきました。
「これまでの営業、何勝何敗ですか?」と尋ねると—
仕事はいろいろ その人にあわせて
打越利用者の皆さんはどんな仕事をしているのですか?
玉木体力、社会性、作業能力が身についたと判断できた人は、施設外の工場に行きます。ベルトコンベアから流れてくるごみから、ペットボトル、プラスチックなど再生可能な資源ごみを抜き取る作業をしています。他には、建物の解体現場で瓦礫を集める作業、店舗引っ越しのお手伝い、除雪、除草などの仕事があります。
打越かなり体力とスキルが必要な仕事ですね。
玉木はい。まだ外に出る準備ができていない人、障がいが重い人、それから高齢者は、ここで内職作業をします。箱折り、ダイレクトメールの封入、鏡餅にのせるミカンの飾り作りなどです。
打越そういう仕事はどこから紹介されるのですか?
玉木探しまくります! それと、うちの活動に賛同してくださった方たちが「こんなことできるのでは?」と紹介してくださることがあります。本当に感謝しています。これはみんなが誠実に仕事をした成果だと思っています。
打越玉木さんが探すんですか。社会福祉協議会などで求人情報を取りまとめているのかと思っていました。
玉木どうでしょう。私が知らないだけかもしれない。
飛び込み営業はわくわく
玉木私はとにかく求人広告をあたって、自分がやるような顔をして説明会に行きます。そして「じつは福祉施設なんですが、この仕事を障がい者にやらせていただけないですか」と飛び込みで営業。
打越自分で仕事を探すんですね。びっくり。
玉木でも、たのしいですよ。人のやってないことをやるのがいいじゃないですか。
打越事業所の方々は理解がありますか。無理だと言われませんか。
玉木そこを切りくずすのが楽しいんです! 「個人的には共感するけれど、障がい者を使ったこともないし、まして事業所に委託する形態はとったことがないので……」と渋られると「やったあ!」と思います。そこから誠意をもってご説明をし、「決してご迷惑はおかけしません、しっかりやりとげますのでチャンスだけでもください。から」と重ねてお願いしたら、新潟営業所の方が東京本社にかけあってくださってお仕事をいただけることになりました。みんなで力を合わせた仕事ぶりが評価され、さらに別の業務もいただけるようになりました。
打越事業所の方も情報がなかっただけで、ちゃんと知ったら仕事を依頼してくれる。これまで営業して何勝何敗くらいですか。
玉木最終的にダメと言われたことはないです。
打越すごい。
玉木企業が「障がい者もこんなに仕事ができるんだ」と知ってくださったら、他の障がい者のためにもなりますよね。今まで障がい者を使ったことがないと言われたら、絶好のチャンスだとうれしくなります。
打越農作業もありますか?
玉木いま農業法人の方とコンタクトを取っていて、これからやろうとしているところです。
打越「農福連携」を厚生労働省と農林水産省が推進しています。農業と福祉の連携で共生社会を作りましょう、障がい者は社会参加でき、農業は担い手不足をおぎなえますよ、と。いい感じのホームページも作っています。
障がい者は買いたたいてもいい?
玉木農福連携はいいことですし、うちもやりたいです。ただ農業にかぎりませんが、障がい者が「最低賃金を払わなくてすむ安い労働力」として買いたたかれる状況があるとしたら、改善すべきではないかと思います。
打越美談の裏側に問題が潜んでいる。厚生労働省、農林水産省、わかってるかな。見ないことにしているのかな。
玉木就労継続支援事業所にはA型とB型があって、うちはB型です。B型の場合、雇用ではなく就労訓練なので事業者は最低賃金を守らなくていいんです。新潟県のB型事業所平均工賃は1人平均月額15882円(2022年)です。
打越うーん。
玉木うちの平均工賃は43010円。暮らしていける額ではなくても平均よりはかなり高い。いちばんスキルがある人は月に14、5万稼いでます。
打越経済的自立をめざせます。
玉木適切な見守りがあれば、障がい者も企業の戦力になれるんです。成長してスキルを伸ばす利用者の姿を、そばで見てきました。「どんなに安い工賃でも、とにかく障がい者に働く体験を、社会参加の機会を」という考え方もあるでしょう。それも間違いではない。でもそれを続けることでどんな未来があるんだろうかと、疑問に思います。
現場で走りながら専門知を学ぶ
打越玉木さんはもともと福祉や心理の勉強をしていたわけではないんですよね。
玉木はい、まったく違う業界にいました。ただ学生時代からノンフィクションの本をよく読んでいて、社会問題に関心があり、いつかこういうことをやりたい気持ちはありました。
打越福祉については仕事を始めてから学んできた。
玉木 同時進行ですね。専門家には叱られるかもしれないけど、同じ人間だから心から接すれば通じるだろうというのが基本。やっていくなかで障がい特性や福祉サービスについてもずっと勉強を続けています。専門職のスタッフもいます。
打越特に専門性を要する時はどうされますか?
玉木そういう時は常に専門家に教えていただきながらやってきました。虐待を受けた方への対応などは特に慎重にならなければいけないので、「わからないので教えてください」と専門の先生の所へお邪魔なくらい足しげく通いました。障害や福祉に関しては県立看護大学や新潟医療福祉大学、特別支援学校、人権に関しては弁護士、各専門の先生方からご教授いただいています。現在も定期的に、職員研修だけではなく、利用者たちの勉強会の講師としてご協力いただいています。先生方に支えられてここまでこられたと言っても過言ではありません。
打越初めてお会いしたのも勉強会でした。長岡の、介護支援者のつどい。あの時も熱心に質問していらっしゃいました。ああいう時に手を挙げることはいとわないんですね。
玉木ほんとは苦手なんですけど、やらざるを得ない。人の人生に関わることですから。
悩めない性分 すぐ次の道を考える
打越パラシュートを始めたのが2015年。最初は大変だったのでは?
玉木いまのようにスタッフもいなくて、睡眠や食事の時間もろくになかったです。私、財力と知力はないんですが体力と気力だけは自信があります。(笑)。
打越「どうしよう」と思うことがいっぱいありました?
玉木うーん、それがあまり思わないんですよね。「やろう」という気持ちしかなくて。今もですけど。私、「悩む」ということができないんですよ。困ったと思っても持続しない。次の道を考える。あまり入れ込めないんです。
打越そうですか。弁護士もそうだけど、人の重い問題を受け取る仕事の人は、背負い込みすぎると自分が鬱になってしまう。だから、リセットしてオンオフ切り替えることが必要だと言われています。悩めない玉木さんは対人援助職にぴったりです。
玉木客観的に考えてしまうんですよ。「これ以上悪くなったらいけない」とブレーキが働いて、感情的に動けないんです。
天職とは言えない ただ楽しい
打越いまの仕事を天職だと思いますか?
玉木思ってません!
打越あ、そうなんだ。
玉木だって、全然できてない。不完全。未熟だし。だから天職なんておこがましいこと、思ってないです。
打越私はすぐ天職と思っちゃうんだけど。弁護士も政治家も。不完全でも。
玉木私も政治家は先生の転職だと思います! 私はただ、この仕事が楽しい。嫌だと思ったことがない。すごく楽しいです。
(つづきます)→第3回
玉木文香(たまき・あやか)
新潟生まれ。一般社団法人「パラシュート」代表理事。グループホーム「皇帝ペンギン」「ワンラブペンギン」「ワンハートペンギン」、そして就労支援事業所「ファーストペンギン」で障がい者の支援に取り組む。好きなものは古いコメディ映画、音楽、ノンフィクションの本。食べ物の好き嫌い、なし(皆で食べればなんでもおいしい)。