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第2回

vol.1_貧困家庭に食べものと希望を届ける,打越、聴きにいく土田雅穂さん_「フードバンクしばた」事務局長vol.1_貧困家庭に食べものと希望を届ける,打越、聴きにいく

1回きりで終わるイベントではなく継続的な支援こそ大切。
それが土田さんの信条です。
通年でお米を届ける「子ども支援プロジェクト」を軌道に乗せ、
母子家庭の人たちとゆっくり信頼関係を築くなかで、
新たな提案も生まれています。

「買ってください」という無情のお便り

土田「学校からお便りがあると、どきっとする」と母子家庭の人は皆言います。
皆さん給料が少なくて、食費2、3万で生活しているわけです。そこに「学用品5千円購入してください」と、容赦なく来る。
どんなにそれがつらいことか。どうしてそんなに買わせなけりゃいけないのか。

うーん。そうですね。

土田私は新潟日報にも投書したんです。でも全然反応なかったな。
「じゃ、しょうがない。俺が立ち上げよう」と。
それで教育委員会と校長会に話をして、賛同していただき、いま小中学校全校で学用品のリサイクルボックスが置いてあります。

そういう人たちは、生活保護の申請は、なかなかしないんですね。

土田しないです。
本当に大変な人が「お米だけでいいですから」と言う。
中学と高校の食べ盛りの男の子がいるから、お米だけいただければ、と。肉だってたくさんあるからごそっと持ってくのに「こんなにいりません」って遠慮する。本当に困っていて、子供に肉を食べさせたいのに。

ああ、遠慮が習い性になってしまっているんですね。

土田「ほかの困っている人にあげてください」と言います。
今日は、DVから身一つで逃げてきて、アパートに生活用品がない人が来ました。ドライヤーや鍋などをもらって、「本当にもらっていいんでしょうか」と何度も言っていました。

弁護士として、一人親家庭の困難を間近で見てきた打越さく良。
貧困家庭の親たちがいかに遠慮しているか知ってほしい、と土田さんは言う。

追い込まれても生活保護を考えない現実

土田日本人ってそうなんです。生活保護受給率は全国で1.6%ですよ。自立自助の国と言われるアメリカで12%、フランスやドイツは10%ぐらい。それなのに、OECD平均より相対的貧困率の高い日本が1.6%。
どんなにきびしくなっても生活保護を考えない日本人。
これが現実なんですよ。
国会議員の皆さんにぜひ考えてほしい。

「生活保護は権利なんだから、受給はそんなに抑制しなくていいんですよ」と言っても、その方たちには届かない。

土田生活保護は権利ですけど、担当者は抑制しなきゃならないんですね。
だから100万円を超える車に乗っていたら「それ乗っちゃダメですよ。50万以下でないと」と言ったりする。下手すると「車を持っていたら生活保護は受けられませんよ」なんて滅茶苦茶なことを言う。これ嘘です。
持ち家だったらダメ、親御さんに収入があったらそちらからお願いします、兄弟がいるでしょう……。
皆審査しますから、ものすごくハードルが高い。プライドもズタズタ。これではしょうがないですよ。

周りの人たちに、扶養する意思があるかどうか確認するのが負担なんですか。

土田それは負担ですよ!こんなみっともない話。

「恥だ」みたいな。

土田「子供もいじめにあうんじゃないか」とか、皆そういうふうに考えてしまう。だから日本の生活保護受給は1.6%。新発田は1%。

そうか。

土田たいへんな状況にあるということは訴えたい。
「1か月前まで、子供を連れて死のうとばかり考えていた」という人がいます。どうやって死のうかと。
いま、自殺者が多いでしょ。

ええ。さらにコロナ禍で、女性の自殺が増えてしまって。

土田1年後、あるいは3か月にはなんとかなると思えればいいんですけど、食べるものがなくなると、希望がまったくなくなる。

その審査は必要なことか

土田フードバンクはいま脚光を浴びていますが、本当に必要な人に対応できているかどうか。
全国から電話がかかってきます。「よそで断られた。なんとかならないか」って。

えっ、それはどうしてですか。

土田管理のことを考えてみてください。
フードバンクを皆さんが立ち上げたとします。
誰が来るか、わからないじゃないですか。お金があるのに来る人がいるかもしれない。それをどうやって判断するのか。
だから、こう考えるのが普通です。
「皆様から頂いた大事な浄財です。私どもは県の社会福祉課か社会福祉協議会から紹介していただいたところにしか出しません」。

ああ、そこでチェックしてもらって。

土田私は意味がないと思う、それ。
私をだました人は、今まで一人もいません。
私は電話が来たら、その日のうちか、翌日届けます。でも、これまで私をだまくらかそうなんていう人には会ったことがない。年寄だってそう。
そんなこと考える必要ないの。

電話の向こうでお腹が減った子どもが泣いていることもある。審査せず、すぐ届けるのが土田さんの方針だ。日当たりのいい和室で熱く語る土田さん。

足を運んで信頼関係をつくる

役所だとやっぱり、預金残高とか収入証明とか、チェックしたくなっちゃいますね。

土田しなくていいんです。
ただし、私も聞きます。「月収、手取りいくら?」って。月収20万、30万という人も来るから。
でも、だますつもりじゃない。
「ちょっと待ってください。うちに来る人はだいたい子供がいて手取り12万以下です」と言うと「あ、そうですか。そうですよね」と言って、引き下がります。
皆いい人たちです。腹が立ったことは1回もないです。

どうしても、公平性とか、モラルハザードを心配してしまいがちですが。

土田その必要ないです。

土田さんは直接行って、見て、そこで感じとるわけですか。

土田そのために行くんじゃないですよ。どんな家に住んでるのか、確認しに行くわけじゃない。「あの人たちは絶対に嘘をつかない」というのが前提です。直接行くのは、信頼関係を得るためです。
信頼してくれたからこそ、利用者が顔を出してテレビの取材に応じてくれた。
こんなこと普通、ありえない。

そうですね。

土田アンケート調査にもびっしりと書いてくれた。それは信頼関係があるからですよ。
行くたびに「なんか困ってることはありますか」と声かけて、少し他愛ない会話するようになって、だんだん、離婚の原因やら、いろんなこと話してくれるようになる。
そして、「こういうこと困ってます」「じゃあ、こうしようか」と提案もできるようになってきて。

てきとうにやるから成り立つ

誰に何を渡すかというのは、どういうふうに整理しているんですか。

土田よくぞ聞いてくれました! 公務員なら必ずそこを考える。
――ぜんぜん整理してません。

あ、そうなんですか。

土田てきとうです。そんなことやったら、成り立たない。

秘訣は、てきとう。

土田全部うちで養うわけじゃないから。今回は肉が多い、野菜たくさんもらったから持ってきた。それで充分ですよ。
どこに何を配ったか、記録している団体があるけど、うちは、一切しない。

管理が大変かなと思ったら。そうか、管理しなければいいんだ。

土田する必要ない。なんのためにするんですか、それ。
それと、フードロス。
自分のところで年間何tフードロスを削減したか、計算して発表しているフードバンクが多いです。

はい。

土田うちは、してません。フードロス対策とも思っていない。
今日9俵持ってきた米、全部新米です。去年のもありますけど、それだって売り物になります。
買ってきたもの、皆さんからいただいたもの。ほとんどフードロスはない。あるとすれば農家からいただく規格外の野菜ぐらいです。
5キロ10キロの米をわざわざ買って、ここへ届けてくださる方もおられるんです。捨てられる食品じゃない。それをフードロスと呼んだら、もってきてくださる方に大変失礼ですよ。

 

(つづきます) →第3回へ

「フードバンクしばた」の前に立つ土田雅穂さん。

土田雅穂(つちだ・まさお)
1950(昭和25)年、新潟県新発田市生まれ。東京でのサラリーマン生活を経て新発田市役所に勤務。
定年退職後、地域総合型スポーツクラブ「とらい夢」に携わる。
2016年、「フードバンクしばた」を設立。趣味は釣り。
フードバンクしばた