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尊厳のある精神医療を目指した人

今井友樹監督『夜明け前 呉秀三と無名の精神障害者の100年』(2018年)

 精神に障がいのある人を「座敷牢」に閉じ込めた時代ははるかかなた…と考えたいところですが、家庭内で監禁されたまま亡くなる痛ましい事件が今なお起こります。
 2023年6月に「新潟しなの福祉会後援会のつどい」で、ドキュメンタリー映画『夜明け前 呉秀三と無名の精神障害者の100年』を観ました。

明治・大正の時代に、東京帝国大学教授、府立松沢病院副院長を務めた呉秀三(1865-1932)。欧州の精神科医療を学び、東京帝国大学病院に帰るや患者の拘束具を外すことを決めます。
 ところがなかなか看護師たちが言うことを聞きません。
 そこで呉はある日音楽会を開きました。そして看護師が出払ったすきに、拘束具を外して燃やしたのです。

 患者を監置するのでなく尊重し治療しようという呉の試みは順調に進みました。 ところが東京府から、治療ばかりに重点を置くな、「監置」しろと通知がきてしまいます。

 呉が留学している間に定められた精神病者監護法では、治療より監置に重点を置き、その手続きを定めていました。
 この法律は、 病院が足りず、私宅監置(座敷牢)がむしろ義務とされる状況で医師の診断書提出を義務づけるなど、手続きはそれなりに近代化を目指したものではありました。
 しかしその法のもとで、精神障がい者が凄まじい人権侵害を被っていたことを、呉と教え子らは全国の私宅監置を調査して明らかにしました。
 扱いがあまりに非人道的であることのみならず、家族も追いつめられ困り果てている状況も書き留め、だからこそ「家族にゆだねるのではなく、不足する病床をもっと増やすべき」と考えたのです。

「身体拘束がなお容易に許される現在の日本の医療状況を、薬もない時代に拘束具を廃した呉は悲しむはず」とのナレーションに頷きます。

 なお、病院の拡充を唱えた呉ですが、それは当時の私宅監置の悲惨な状況を憂いたためです。欧州の、地域にかかわる精神障がい者の姿に目を見張った経験から、そうした尊厳を大切にする医療を彼は目指していました。
 今の日本が、国連の障がい者権利委員会から、期限の定めのない強制入院を問題視されても無視し、OECD加盟国の4割弱の精神科病床数を占めたままでいることを知ったら、嘆くに違いありません。

 昨年、国会の本会議で私は精神健康福祉法改正に反対討論をおこないました。精神に障がいのある人の尊厳を尊重する法制度の実現は私の課題のひとつです。

 そして家族の生活保障も大事な課題。ヤングケアラーが話題になりますが、生活保障、負担軽減は子どもだけではなく大人も必要です。
家族主義がより強かった時代に、ケアラーにも共感を寄せた呉の慧眼、素晴らしい。 がんばります。

(2023年6月11日)