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第211回通常国会を振り返って③

旅館業法 ゲノム医療法 LGBT理解増進法

従業員の安全と差別防止を両立させる

旅館業法改正は、コロナ禍で従業員の感染を心配する現場の方々から、客の宿泊を一定の場合拒否できるよう新たな基準を求めたことに対応するものでした。
一方で、2003年にハンセン病の元患者の宿泊拒否事件があり、当初の改正案は「差別を助長する」と反対の声が元患者や弁護団からあがりました。
憲法13条、22条に由来する移動の自由があり、宿泊拒否を可能とする事由は極めて限定されなければなりません。

また、過度なクレーマー客で従業員に過重な負担がかかることに対応した法改正も求められていましたが、この点も障がい者団体から「一方的な宿泊拒否につながるのではないか」との懸念が寄せられました。

与野党で協議を重ね、衆議院段階で、感染対策の求めに応じない場合の宿泊拒否を削除しました。これによりいわゆる「迷惑客」を想定した宿泊拒否事由であることが明確になり、私の質問に対する答弁で「宿泊施設従業員の健康と安全を確保するための規定で、差別があってはならないのは大前提」ということが明らかになりました。

宿泊を拒否できる感染症は、エボラ出血熱や結核など、感染症法の1、2類にあたる感染症や新型インフルエンザ等になり、5類に移行した新型コロナは対象外となりました。
6月6日の参議院厚生労働委員会で、私は大臣から「宿泊拒否事由は極めて限定的に解釈されるべきであり、従業員に対する必要な研修の機会を旅館業者の努力義務とした」旨の答弁を得ました。

2022年4月21日の厚労委員会では、視覚障がい者が盲導犬を伴った場合にワクチン接種会場にて拒否された件を取り上げました。盲導犬ユーザーの相当数が宿泊拒否を経験しているという調査もあります。
ガイドラインやリーフレットを作成したという答弁をいただきましたが、現場に徹底されるよう、研修など周知の状況を把握していきたいです。

差別や偏見を生まないための指針があればすむわけではなく、大切なのは具体的な救済あるいは苦情の仕組みです。
国連の障がい者の権利委員会が2022年9月9日の日本政府に対する総括所見で、障がいに基づく差別の被害者が利用しやすい苦情や救済の仕組みがないことに懸念を示しました。私は、指針の中で苦情や救済の仕組みを明記するよう求めました。

障害者から法改正への懸念が強かった背景には、バリアフリー化が進んでいないことがあります。
人員削減が響き、カウンターが無人のところも増えるなど、困難が増しているとの指摘もありました。全体の底上げのために調査して課題を抽出すべきです。
またジェンダー、セクシュアリティ差別による拒否はいけないことが周知されるべきではと質問したところ、厚労省は引き続き周知を図るとの答弁でした。

ゲノム医療法案

 遺伝情報に基づいた医療は、治療が困難な難病患者にとって福音とも言われる一方、差別につながるおそれも指摘されてきました。米国等ではゲノム医療の進展に伴い遺伝情報による差別を禁止する法制も整備しています。

ところが日本では諸外国から四半世紀も遅れ、法制度もなく、超党派の議員連盟が多くの難病患者やご家族の願いを受けて、検討を進め、ようやく、「幅広い医療分野で世界最高水準のゲノム医療を実現する」としたゲノム医療法案の取りまとめに至りました。
国がゲノム医療に関する基本計画を定め、研究開発を促進し、個人のゲノムや健康に関する情報を管理し活用する基盤を整備することを内容としたものです。

 一方で、遺伝情報によって病気のなりやすさなどが判明すれば、保険加入や雇用、結婚などで差別や不利益な取扱いにつながるおそれもあります。そこで、法案では、遺伝情報の適切な管理が行われ、差別が行われないよう、医師や研究者などが守るべき事項に関する指針を作り、起こりうる課題に適切な対応をとるものとしました。

ゲノム情報の扱いは倫理的、科学的に

6月8日の厚生労働委員会で、関連質問を重ねました。まず遺伝情報、ゲノム情報による差別の防止についての法整備について質問しましたが「必要な対応を図っていく」という答弁にとどまりました。

個人情報保護法17条、20条では、要配慮個人情報の取得や第三者提供の際には目的を明示して本人から同意を取得することとなっています。
しかし、保険会社から小さな文字でみっちり書かれた文書を渡されても読まずに同意してしまいがち。同意があったらOK、個人情報保護法があるから大丈夫、ではなく、差別や不利益を生まないために同法を補完するための方策が必要と思われます。
厚労大臣は、厚労省を中心に内閣府、文科省、経済産業省など関係省庁と連携して対応するとのことでした。

さらに、保険分野におけるゲノム情報の取り扱いも懸念されます。「関係者と協議しながら今後の施策を検討したい」という金融庁に対して、その関係者には倫理や法律分野の方も含まれるか質問し、含まれるとの答弁を得ました。
法務省には、人権擁護機関が設置する相談窓口でゲノムに関する差別も受け付けることの周知を要請しました。

非医療行為としてのゲノム検査がダイエットや婚活に利用されるなど、野放し状態になっています。「消費者保護規制は経産省管轄だ」と突き放さず、厚労省として、倫理的、科学的妥当性からのアプローチが必要ではないか質問しました。

全ゲノム解析を販売する業者や、人間ドックで全ゲノム解析を提供する病院も登場しています。少なくとも、子どもへの遺伝子検査は本人の利益が見込まれる場合に制限するべきではないでしょうか。規制法が必要と改めて思います。
がん対策基本法25条2項には、がん対策推進協議会におけるがん患者及びその家族または依存を代表する者の参加が明文化されています。
ゲノム医療についても当事者や家族、遺族の意見が尊重される仕組みが必要です。

世界の流れに逆行する「LGBT理解増進法」

LGBT理解増進法案が「理解抑制」法案というものに後退しまったことについて、6月14日に書きました。
翌6月15日、私は急遽、参議院内閣委員会で質問を担当することになりました。

私の前に自民党議員が二人続けて質問しました。
有村治子議員の質問に外務省は「諸外国でいわゆる性的指向、性自認を事由とした差別に特化した法律はない」と答弁。それを受け有村議員は「日本だけがLGBTに関する立法が遅れている、恥ずかしいとの印象を必ずしも持ち得ません」と述べました。

しかし、私の質問に国会図書館が答弁したように、アメリカを除くG7各国では性的指向または性自認は、人種、宗教など一般的な差別禁止に関する法律の中で差別禁止事由とされています。アメリカでは2020年、性的指向又は性自認を理由とする解雇が「性を理由とする差別」に当たるとする連邦最高裁判所の判決があります。
特化した法律の有無だけを問題にするのはおかしい。やはり「日本だけが遅れていて、恥ずかしい」のです。
G7声明でLGBT差別防止を掲げた岸田総理は、国内では自民党総裁として差別禁止どころか理解すら後退させ、二枚舌甚だしいとも指摘しました。

参考人の井上久美枝連合総合政策推進局長に、LGBTに関する連合の取り組みについて答弁していただきました。
自公案を元に維新と国民案を採り入れた4党合意案は、立憲が提出した当初の超党派の議連案から大きく後退したというのが連合の見解です。超党派議連案にあった「調査研究」が「学術研究」に代わったことで、国が調査研究を実施する責任がなくなるだけでなく、研究分野も狭まり政策につながりにくくなる懸念も表明されました。じっさい、男女共同参画社会基本法18条に「調査研究」とあることで、DVや困難を抱える女性の統計が集められたのです。

世界の潮流に日本が逆行しているとESG投資の観点から忌避されるリスクもあり、企業はビジネスチャンスだけではなく労働者の雇用機会も失う懸念があるとの重要な指摘もありました。

私は会派を代表して反対の討論を行いました。「政治は分断を煽り、苦しんでいる人を絶望に追いやるのではなく、希望と連帯のためにある。その原点に立ち返って法案に反対していただきたい」と最後に呼びかけましたが、可決してしまいました。

(つづきます)→第4回へ