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DV防止法が改正されました

第211回国会

多くのDV被害者に会った経験から

2023年5月12日、DV防止法が改正されました(5月19日公布)。
こちらが条文と概要です。

私は弁護士としてDV被害者の離婚事件等を多く担い、保護命令の申立人の代理人も務めてきました。
その経験からDV防止法は使い勝手が悪く、被害者救済に資するものにしなくてはという思いがありました。
そこで立憲民主党のワーキングチームの一員として、実効的な改正の骨子をまとめました。
加害者更生プログラムの受講を義務づけてほしいとの要請が強かったことを受け、せめて基本方針や基本計画の記載事項として明記することや、DV被害者とその子が家に住み続けられる制度の創設なども盛り込んだものです(こちらの記事でもコンパクトに紹介されています)。

 

提言のポイント3点

「逃げる自由」しか認めない日本の法(水野紀子東北大学名誉教授による指摘)が、結局被害者に暴力を耐え続けさせている。そのことをいくつもの相談ケースから実感していた私としては、住み続けられる制度の実現は切実です。
日弁連からも、「被害者が従前の住居での生活を保持できる制度を別途構築すること」が提言されていました。
また、親族の申立てを可能にすることも盛り込みました。この点は、いわばマインドコントロール下にある被害者自身が申立てを決断できない場合を考えてのことです。実際、他国には被害者以外の申立てを可能にする制度もあります。
保護命令の発令までの期間の長さが被害者に申立てをためらわせる要因になっていたことから、無審尋保護命令の要件の明確化も提言しました。
 
今回の第五次改正のポイントは上記の概要の通りですが、なお残る課題がいくつもあります。
そこで、内閣委員会に所属していない私は、所属する仲間にいくつかの附帯決議項目をお願いしました。
与党との調整も経て、まとまった参議院の附帯決議はこちらです。
いずれも救済される被害者が今回の改正によりかえって限定されないように求める内容です。
一部をご紹介します。

精神的暴力の深刻さを認識して

今回の改正法で接近禁止命令の発令要件に「精神的暴力による危害」を含めることにしたのはいいのですが、驚いたのは、退去等命令の発令要件には含めないとしたことです。
これでは精神的暴力等が身体的暴力に比べて被害は深刻ではないというメッセージを示してしまいかねません。
そんな誤解を生まないようにすること、また、退去等命令についても、精神的暴力等への対照を拡大することを含めた見直しの検討を「二」に盛り込みました。

親族等被害者以外の申立ては改正法にも盛り込まれませんでしたが、被害者本人による申立てが困難な場合があることを前提にして、「三」は必要な支援を特別に求めています。

また保護命令の申立てから発令までの平均審理時間が約12日間もかかるというのは、先ほども述べた通り問題です。
今回、緊急保護命令は見送られ、党が提案した無審尋保護命令の要件の明確化もなされませんでした。
しかし、「四」の通り、この平均審理期間によって被害者が「申立てを躊躇することのないよう、被害者の保護を最優先にした必要な対応を講ずること」とされました。
相談者が「そんなに期間がかかるならかえって怖いから申し立てません」と臆するのを目の当たりにしてきた私としては、若干の前進です。

被害者が家に住み続けられるように

さらに、「五」は、被害者と子が引き続き同じ住居に住み続けられるよう必要な対応を検討すること、としました。
上述した、被害者に「逃げる自由」しかない現行制度の問題点を前提にしたものであり、意義があります。
今回の改正法で、住居の所有者や賃借人が被害者のみである場合には期間を2月から6月にする特例が設けられましたが、私の経験上そんな事案は記憶にありません。限定的な改正はあまりにも被害者の要望とかけはなれ、残念ですが、この附帯決議によって前向きな修正に進めたいです。

同性カップルのDVをどう考えるか

私の著書『第3版 Q&A DV事件の実務 相談から保護命令・離婚事件まで』でことさら保護命令の対象から同性カップルを排除する解釈、運用は不合理であると主張してきました。

少し解説します。
2013年改正DV防止法では、配偶者からの暴力だけなく、生活の本拠を共にする交際相手からの暴力及びその被害者についても、配偶者からの暴力及びその被害者に準じて、法の適用対象とされることになりました。
しかしその当時の参議院法制局の永野豊太郎氏が論文「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の一部を改正する法律」のなかで、「婚姻関係」の解釈について、婚姻は両性の合意により成立している関係であるとして同性間での保護命令の適用に否定的な解釈を示しました。
これを引用する形で東京地裁や大阪地裁の裁判官からも否定的な解釈が出されてしまったのです。

こうした否定的な見解には批判が多く、日弁連も「同性間におけるDVにもDV防止法の規定が準用されるように、同法28条の2に規定する「生活の本拠を共にする交際をする関係にある相手」の後に「(暴力を受けた者と相手の性別が同一の場合も含む。)」との文言を設けること。」と提言しています。

与野党間の調整ができたDV防止法

第5次改正までに内閣府に確認したところ、上記の解説がなされた2013年より後の2015年に渋谷区と世田谷区でパートナーシップ条例が出されている(つまり、参議院法制局や東京地裁や大阪地裁の判事の解説は、そうした状況の変化を踏まえてはいなかった)。
そして実際、その後同性間で対象となった例もあるということを内閣府から確認しました。

さらに「六」で同性カップルも対象となることの周知、通報の努力義務を含め、同性カップル間の対応も遺漏なきを期すことが盛り込まれました。
このときは与野党間筆頭理事の調整で無事「六」がまとめられました。感謝申し上げます。

その後、LGBT理解増進法(ならぬ理解抑制法ともいうべきもの!)をめぐり、与党と一部野党により、超党派案が目を覆わんばかりに後退したことを考えると、DV防止法の成立時にこの附帯決議には注目が集まらなかったことが幸いし、バックラッシュを受けずにまとめることができたのは、国会構成からすると奇跡のようです。

子どもへの支援を忘れてはいけない

また、DVが被害者のみならず子どもに深刻で長期的な影響を及ぼすことは本にも書いてきた通りで、出会った依頼者の子どもたちの過酷な状況を今も思い返すと胸が痛くなります。

そのため、立憲民主党の骨子には、法の前文に子どもへの支援を盛り込むこととしました。附帯決議「七」に、被害者の権利擁護のほか、被害者の子に対する支援についての更なる取り組みの強化を入れることができました。
また、「十二」では、DVと子どもの虐待の実態や、DVが子どもに与える影響について情報を収集し、研修を関係機関の職員にすることとしました。

衆議院での附帯決議もご参照ください。

第5次改正も100パーセントの内容の改正法ではなく、首を傾げたくなるところもあります。
しかしその点は、附帯決議によってカバーできた、よくここまで与野党間で調整できたと感慨深いものがあります。

附帯決議から前へ進めよう

附帯決議に法的拘束力はあるかと言われれば、ありません。
しかし、国会の意思を示したものなのですから、国会議員としては、政府に対し折に触れ検討状況を確認するなどし、この意思を踏まえて前に進めているのかを不断にチェックしてまいります。

DVを受け大変な思いをした元依頼者や子どもたちのこと思い浮かべて、あんな苦しみが続かないようにと願いながら頑張りました。
これからも彼女ら彼らに伴走した経験を想いながら、働きます。 

(2023年 7月30日)