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憲法審査会で私が述べたこと

第211回国会

議員任期の延長論が浮上…

 
参議院の憲法審査会は、第211回国会中6回開催され、私は2回発言しました。

まず5月10日には、にわかに話題になっている「選挙の実施が困難な場合には国会議員の任期を延長できるよう改憲すべきだ」という議論について反対意見を述べました。
立法事実も定かではなく、内閣の権限濫用、国民主権の原理をそこなう恐れを拭えないからです。

「選挙の実施が困難な場合」という要件は曖昧であり、濫用の歯止めにはなりません。
改憲を主張する会派は、参議院の緊急集会は「二院制の例外」と主張しますが、むしろ参議院の緊急集会は、緊急事態にあっても国民主権を貫徹させるための制度です。
緊急集会が例外だから問題だというなら、議員任期の延長など国民主権の例外の例外で問題です。

5月31日の審査会で参考人の土井真一京都大学大学院教授が「緊急事態から通常時へのレジリエンス、復元力の高い仕組みをご検討いただきたい」と仰いました。さらに「通常時に復帰した後、緊急事態において講じた措置について、その合憲性、合法性を審査する機会を適切に確保していただきたい」とも。
そしてこの2点は「立憲主義体制を維持しつつ、緊急事態に対応するための不可欠の要件」であり、この点「緊急集会は、合理的な設計に基づく制度の一つ」と指摘なさいました。
我が意を得たり、です。

日本では過去一度だけ衆議院議員の任期延長が行なわれたことがあります。
明治憲法下では衆議院の任期の定めがなかったため特例法で任期延長が可能だったのです。
特例法の解説には、「国民に選挙に没頭させることは、国政にとって不必要にとかく議論を誘発」する等、挙国一致体制の整備上問題があるから、任期を延長するのだ、とあります。高見勝利先生が指摘されるとおり、議員任期延長は、戦争遂行の国内体制を整備するためだったのです。
任期延長を唱える議論には、この点の反省が欠けています。

参議院選挙区の合区問題

5月17日の憲法審査会では、参議院議員の選挙区における合区問題について、国会が二院制であること、参議院が民選議員であることの大前提を踏まえた上で、検討すべき論点2点を挙げました。

すなわち、第一の論点として、投票価値が平等か、国会議員が地域代表として位置付けられるかです。前者は憲法44条から要請されていますが、後者は憲法43条の中で特に定められていません。
仮に地域代表を理由に投票価値の平等の要請を後退させるとしたら、比較的対等な両院関係を見直し、「弱い参議院」を制度化することとなるでしょう。しかし平等の院からの権限縮小にコンセンサスが得られるでしょうか。

第二の論点としては、一票の較差です。憲法上投票価値の平等が求められます。平成24年最高裁判決を踏まえてようやく平成27年に公職選挙法が改正され、そのもとで3回選挙が行われていますが、合区の是非や選出された議員の正統性などの総括が必要です。

歴史に学び、場当たり的な議論に振り回されずに

論点を提示してもその後議論が深まっていくことはありません。
このような状態を丁寧にフォローする報道は残念ながら見当たらず、せいぜい会派代表の議論の要約をつまみぐいする程度で、重要な論点の考察に踏み込まないまま、「参議院の憲法審査会は衆議院に比べ議論が遅れ気味」と煽り気味な印象論も散見されます。

先日ご逝去された故中山太郎衆議院憲法審査会初代会長が考案なさった、政局に絡めないで論ずる、少数政党の意見も尊重するといった、「中山方式」の意義が、国会内外で忘れ去られているかのようです。

もっとも、朝日新聞の豊秀一編集委員の「(憲法を考える)参院の緊急集会、位置付けは 長期間選挙できない時、国会はどうしたらいい?」(2023年6月23日)は読み応えがありました。緊急事態条項をめぐる議論が1950年代から姿を変えながら続いていたことをふまえ、野党が憲法53条に基づき臨時国会の召集を要求しても無視するといった平時の憲法価値の侵食を食い止めずに緊急時の権力乱用の防止のための改憲を口にする欺まんをあきらかにしています。

 日本弁護士連合会も、私の所属する新潟県弁護士会 ほか各地の弁護士会からも、議員任期延長に向けた改憲論に反対の声明が発出されており、心強いです。
しかしまだまだ関心が高いとはいえません(議員任期延長の必要など切実でないから当たり前といえば当たり前ですが)。いたずらに「選挙の実施が困難な事態」を仮定して議員任期延長を可能とすれば、「行政監視のために」といった名目とは裏腹に、ときの政権にとって都合の良い会派構成の国会が維持され、権力の維持固定化につながる懸念があります。

数の力で強引に改憲に引っ張られず、また場当たり的な議論に振り回されることなく、立法事実を確認し、歴史に学び、熟議をつくしたいです。
(2023年8月7日)