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子どもの意見の尊重は?

法制審議会「家族法制の見直しに関する要綱」について②

チルドレン・ファーストならば

*第一回時点は法案を確認していなかったのですが、3月12日に法案を入手したので、以下法案も確認しながらまとめます。

家族法制の見直しを法制審議会に託した際の上川法務大臣(当時)が発言には、子の最善の利益を図る観点」「チルドレン・ファースト、すなわち子どもを第一に考える視点」が求められていました。

 私は父母の争いの間で大きな影響を受けながら蚊帳の外に置かれがちな子どもに出会ってきました。
ある程度年長の子どもには、依頼者の了解を得た上で、依頼者には席を外してもらい、「今どんな手続きが行われているか」をなるべく中立的に説明し、質問を受けたこともありました。
淡々とした手続の説明にとどめましたが、後日、依頼者から「荒れていた子どもが治りました。スッキリしたみたいです」と報告されて驚くこともありました。
ささやかな経験から、子どもを蚊帳の外におかないことの大切さを実感しました。

子どもの意見の尊重は明記されず

 法制審議会が答申した要綱には、「親子関係に関する基本的な規律」の「父母の責務等の明確化」には「その子の人格を尊重」とあるものの、意見の尊重は明記されませんでした。民法改正案817条の12にも同じく親の責務として「その子の人格を尊重」を上げるにとどめ、意見の尊重の明記は見送りました。

法制審議会答申を受けた日本弁護士連合会の会長声明では、要綱に残る問題の一つに、「親子関係における基本的な規律の中に子どもの意見を尊重すべきことが明記されなかった」点を挙げています。

 全国青年司法書士協議会も声明で、子どもの意見表明権の明記を見送ったことを問題としています。
法制審議会家族法制部会の要綱に付された附帯決議の2項には、「子の養育は、子の意見・意向等が適切な形で尊重されることも含めて子の利益の確保の観点から行われるものである」とあります。しかし、繰り返しになりますが、要綱自体には子どもの意見・意向の尊重を記載しません。
明記が見送られたのは、委員から「子どもに過酷な選択を迫ることにならないか」という懸念が出たためのようです。

協議離婚では子どもの意見表明権の確保は困難

それでは、どのように記載すべきだったのでしょうか。この点、日本も批准する子どもの権利条約12条は、締約国に以下を義務づけています。

1 締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。
2 このため、児童は、特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる。

 子どもに意見表明権を確保する義務を課されているのは、父母等ではなく、国です。ところが、当事者間の協議に多くを委ねる離婚制度では、司法上の手続を経ないのですから、国が関与する機会がありません。
上述の通り、日弁連の声明では、要綱において「親子関係における基本的な規律の中に子どもの意見を尊重すべきことが明記されなかったこと」を問題とし議論の対象とすべきとしていますが、要綱や法案のたてつけからして無理があるように思います。
仮に、父母に子どもの意見表明権を確保せよとなれば、争いのある父母がそれぞれ子どもの意見や意向を聞き出そうとして、子どもにとって大変なストレスになるのではないでしょうか。
中立で専門性の高い第三者が、子どもから丁寧に聴きとる必要があります。
 未成年の子どものいる離婚についても協議離婚制度を維持した上で、子どもの意見表明権を明記するのは困難でしょう。この点からも協議離婚を見直ししなかった点は惜しまれます。

家庭裁判所調査官や子の手続代理人

なお、家庭裁判所での手続を経験した方々からは、家庭裁判所についての疑義も多数聞かれます。確かに、率直に申し上げて「?」という思いがよぎる調査官もいらっしゃいました。しかし、法制審議会家族法制部会第8回での最高裁家庭局の説明の通り、調査官のいる家庭裁判所が子どもの意思を適切に把握するよう努めてきたものであり、それに代わる専門機関はありません。
子どもは影響されやすくその言葉をそのまま鵜呑みにできない場合も多く、丁寧に聴き取り多角的に分析する必要があります。それが期待できるのは、調査官を配置する家庭裁判所でしょう。
子の手続代理人(家事事件手続法23条)は、子どもの意見表明権(子どもの権利条約12条)を具体化するものと大いに期待されました。
法制審議会家族法制部会第8回では、日弁連子どもの権利委員会推薦の池田委員から、子の手続代理人の役割が具体的に紹介されました。
子どもの意思とその客観的な利益に沿わない場合でも、子どもをビシビシ説得するのではなく十分時間をかけることで、意思を尊重もし、その利益にもかなう調整ができることがあるという事例など、「なるほどこれぞチルドレンファーストの実践」と頭が下がります。しかし、最高裁判所事務総局に確認したところ、子の手続代理人は家事事件手続法、人事訴訟法、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する法律の全て合わせても、2013年から2024年1月まででわずか346人の子どもに就いただけとのこと(!)。未だ実際に活用は乏しく、残念です。
2022年の児童福祉法改正は、児童相談所が子どもを一時保護する際、児童相談所に子どもへの意見聴取を義務化しました。親権や面会交流が関わる事件でも、子どもの意見意向を尊重すべきではないでしょうか。調査官や子の手続代理人の実践からして、子どもに過酷な選択を迫らない、丁寧なあり方があるはずです。
附帯決議2項の「子の意向等が適切な形で尊重」は、要綱、さらには法案に入れていただきたかったです。法案審議の大きな課題ではないでしょうか。

(2024年3月)