養育費・社会保障/税制・財産分与・離婚事由
離婚事件を多く担当してきた弁護士としての経験からどうも今回の家族法制の見直しについて課題を書きすぎたかもしれません(汗)。
今度こそ手短にまとめます。そして今までつい懸念点を連打しがちでしたが、今回は評価できるところも取り上げます。
1 養育費
養育費の取り決めをする母子世帯は半数以下で、取り決めをしても口約束など実効性もなく、継続的に受け取ることも難しい実情にあります。
ひとり親家庭の貧困が社会問題として認識されて久しいものの、養育費を払ってもらうのもいわば「自己責任」かのように、確実に支払ってもらう方策が不十分でした。
改正法案では、養育費の支払いが滞った場合には優先的に財産を差し押さえられるようにしました(改正法案306条3号、308条の2)。苦労して獲得した審判ですら紙切れ同然になる虚しい事案もあったことを思い起こすと、公正証書や審判等の債務名義がなくても差押が可能になったことは大変感慨深いです。社会保険料のように天引きができないかなどまだ課題はあるとはいえ、大きな前進です。
また、改正法案では、取り決めをせずに離婚した場合でも、一定額の養育費を請求できるようにしました(法定養育費 改正法案766条の3第1項)。取り決めすること自体がDV被害者にとってはハードルが高いことを目の当たりにしてきた私としては、会派の検討でも、「取り決めなしでの養育費の請求ができないか」を模索しながら具体化は難しいと思っていたので、この改正は大いに評価します。
執行手続の負担軽減策(ワンストップ化)、収入情報の開示命令などの裁判手続が整備されたこともほっとするところです(民事執行法167条の17、人事訴訟法34条の3、家事事件手続法152条の2)。
なお今裁判所実務で定着してしまったいわゆる算定表での養育費の金額は低すぎます。改正法案817条の12第12項に「その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない」と明記されたものの、家庭裁判所も生活保持義務と一応捉えながらも算定表を活用してきました。離婚後共同親権となるかどうかと算定表のあてはめは別の話と思われますが、共同親権となれば算定表をさらに見直すとなれば、ひとり親世帯はさらに厳しい状態になります。そうしたことがないよう確認する必要があります。
2 児童扶養手当・児童手当・所得控除他
児童手当は、生計を同一に監護をする者に支給され、子どもを養育しているものが複数いる場合には、原則として「生計を維持する程度が高い者」に支給されています(児童手当法4条)。児童扶養手当も、親権の所在ではなく、監護や生計維持関係によって支給対象者が決まります(児童扶養手当法4条)。
また、所得税における控除の適用についても、親権の所在とは別です。
ただし、就学支援新制度では、父母が離婚して父に親権があるが、母が実際の養育をしているケースでは原則として父の税額を元に就学支援金の支給額を判断しています。
親権の所在で決まるわけではない制度が多いように思われますが、その理解でいいのか、確認が必要です。
3 財産分与
財産分与をしようにも相手が財産を隠してしまって泣き寝入りといったこともあります。改正法案では財産分与に関する裁判手続において財産の情報を開示するよう命令することができるとされています(改正人事訴訟法案34条の3)。
また財産分与の請求の2年は短すぎました。民法改正案768条で5年になっていることも前進です。
財産分与の考慮要素が明確にされ婚姻中の財産獲得・維持に関する寄与の割合を原則2分の1ずつとされることになったのは、すでに実務で定着していることなので、うーむ、もう一声欲しかったというところです
というのも、やはり女の多くが結婚、あるいは出産後に仕事を辞めるなどして、大幅に収入がダウンします。「私が夫のように会社を一旦辞めなければもっと収入も貯金もあったのに、財産を半々で分けるだけではとても納得できない。子どもを抱えて生活できない」と嘆く女性たちをみてきました。
婚姻後増えた財産を夫分妻分、足して2で割るという財産分与を「清算的財産分与」といますが、今回の改正法案では実務で定着した清算的財産分与を明確にしたまで。
離婚後たちまち貧困になるのがわかっていて、では子どもにかわいそうな目に遭わせるからと離婚を諦めた女性たちを思い出します。よほど高齢などでなければめったに認められない扶養的財産分与こそ必要です。
4 離婚事由
今回の改正法案は、民法770条1項4号の裁判上の離婚の原因である「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」を削除するとしています。
この規定は、2022年9月の国連の障害者権利委員会による日本の第1回政府報告に関する総括所見で、差別的な規定であるとして削除を勧告されました。
判例(最判昭和33年7月25日民集12巻12号1823頁)でもすでにこの規定による離婚請求を実質的に制限したものと言われています。以後の裁判実務も、配偶者の精神病の状況も一つの事情として同項第5号「婚姻を継続し難い重大な事由」があるといえるかの判断していました。
本来もっと早くに削除すべき規定でした。
今まで取り上げてきた課題以外にも、取り上げるべき課題はまだまだあります(親権という言葉はそのままでいいのか等)。審議を見守りたいです。
(2024年3月)