facebook

最新の活動はfacebook をご覧ください。

第213 回国会 雇用保険法改正(5月7日・5月9日)

第213回国会 雇用保険法改正

正直、地味な法律だと思いましたが

雇用保険法。
話題になることも少ない、地味な法律です。

正直言うと私も、雇用保険法等の改正案が厚生労働省から提出された時は
「雇用保険を受けられる人が増えるのね。オッケーじゃない?」
くらいに思っていました。

今回の改正は、
① 雇用保険の適用拡大(週所定労働時間を20時間以上から10時間以上に変更)
② 教育訓練やリ・スキリング支援の充実
③ 育児休業に係る安定的な財政運営の確保
④ その他雇用保険制度の見直し
いろいろな面で前進がある内容ですから、立憲民主党も賛成しています。

しかし、審議に向けて法案を読みこむうちに、
「おお、これは憲法の『職業選択の自由』『生存権』『健康で文化的な最低限度の生活』に直結する、だいじな法律!」
びびっときました。

そこで、改正案には賛成しながらも、残る課題を明らかにしようと、5月7日の参考人質疑、5月9日の質問に立ちました。

日本で失業給付を受ける人の割合は低い

仕事につけず収入がない時、生活保障が十分でなければ、暮らしていけません。生活に困ればブラックな仕事をするほかなくなり、それでは職業選択の自由も保障されないことになります。

ところが日本の雇用保険は、職を失った人を支えるセーフティネットとしては頼りないものです。ここ10年、給付制度手当を受給している人は完全失業者数の20パーセント台前半、OECD加盟国中でも低位。1980年代前半には、50パーセント以上の人が給付を受けていたのに。

日本の受給者割合が低い理由は何か。
次の3つがあげられました(日本弁護士連合会貧困問題対策本部事務局長・房安強参考人による)。

① 受給者資格要件がきびしい
② 所定給付日数が短い
③ 自己都合退職の場合、(正当な理由がなければ)2カ月の給付制限がある

今回の改正で、自己都合退職による給付制限は通達で2カ月から1カ月に短くなりました。また、自己都合退職でも、所定の教育訓練を受ければ給付制限しないことになりました。これまで条件がきびしすぎたことへの反省があるのでしょう。

改正法案で雇用保険の適用が拡大されても、もし事業主が加入手続を怠ってしまったら、意味がなくなります。
厚労省は「労働者からハローワークに確認請求が合った場合、事業主を指導している」と言いますが、ハローワークは警察とは違います。しかも会計年度任用職員が多いハローワーク。悪質な事例を調査し指導する体制が整っているとは、とうてい思えません。

退職理由「会社都合」の認定はたいへん

パワハラ、嫌がらせなどが原因で退職した場合には、特定受給資格者(会社都合)となり、2カ月の制限なくすぐに給付が受けられることになっています。
しかし、事実を巡って会社と退職者で争いが起きた場合、適切な認定ができているかも心配です。
労使双方の言い分を聞き、場合によっては同じ職場の従業員からの聴き取りや録音記録の確認もする……多大な労力がかかります。
ハローワークには、十分な人員体制やノウハウがあるのでしょうか。

特定受給資格者の要件である「退職勧奨」「上司、同僚等からの故意の排斥」「著しい冷遇」を、事業主が認めることはめったにありません。
労使の主張が対立した場合、証拠資料がなければ特定受給資格者として認められませんが、ブラック企業を離職する前に、録音等の証拠資料を用意するなんて、なかなかできることではありません。

そこで私は「離職理由に争いがある場合、こうした労働者側の困難を踏まえた認定をすべきではないか」と質問しました。
「ハローワークでは客観的な資料の有無だけで判断することなく、職場の同僚等の意見なども丁寧に聴取することによって離職者側の置かれた状況に寄り添って必要な判断を行うよう努めている」との答弁でした。

しかし、職場に残っている同僚に「パワハラがありましたか」と聴取したとしても、「はい、ありました!」と答える勇敢な人がどれだけか、疑問が残ります。

「自己都合」8割の中身は

そもそも、特定受給資格者(会社都合)と自己都合に分けることに、合理性はあるのでしょうか。

厚労省の令和3年度「雇用動向調査」をみると、労働条件や職場環境が悪いために退職する労働者がかなりの割合でいます。
男性は「職場の人間関係が好ましくなかった」が8.1%、女性は「労働時間・休日等の労働条件が悪かった」が10.1パーセントです。
「職場の人間関係が好ましくなかった」と「上司、同僚等からの故意の排斥または著しい冷遇」「嫌がらせ」は、はっきり区別できません。「労働時間・休日等の労働条件」がどの程度悪いのかもわかりません。違法で劣悪な労働条件かもしれません。

失業手当の初回受給者のうち8割近くが「自己都合」です。
しかしそのなかに、会社都合といえる事案も潜んでいるのではないでしょうか。
「自己都合と会社都合の区分はあいまい。この区分は合理的ではないのでは」と私は大臣に問いました。しかし大臣はなお「合理性があるし、認定が困難な場合も離職者に寄り添って認定を行う」との答弁で残念でした。
  

給付に必要な被保険者期間が長すぎる

今回の改正で、労働時間が週10時間から20時間までの人にも雇用保険が適用されることになりました。
適用範囲が拡大したのはよいことですが、労働時間が短い人は、雇用期間も短くなりがちではないでしょうか。受給するには被保険者期間が12カ月以上必要ですが、これは長すぎないかと気になります。
日弁連の意見書には受給資格要件拡大にあたり「2007年改正前と同じく一律に離職日前1年間に被保険者期間が通算して6ヶ月以上あれば受給者資格を認める」とあります。それが合理的です。
ところが厚労省は「失業給付を目的とした安易な離職を防止する観点から」、離職前2年間に被保険者期間が12か月以上あることを要件とすることに合理性があるとの答弁を繰り返しました。

離職が「安易」かどうかなんて、誰が決めるのでしょう。

令和4年国民生活基礎調査によると、貯蓄がない世帯が全世帯の11.0%です。「給付が出るまでの2か月は貯金を切り崩してしのぎなさいよ」と言われても、それができない方がかなりの割合いるということです。これではブラックな職場でもやめるにやめられません。

上から目線の「モラルハザード防止」

雇用保険をめぐっては「モラルハザードの危険性がある」「安易な離職を防止しなければならない」となどと、したり顔で言われます。失業しても生活が保障されるなら「働かなくていいじゃん」と、かんたんに仕事をやめて怠けるんだろう一般大衆どもは、というわけです。
なんでしょうか、この上から目線は。

盛んに言われる「モラルハザード」が実際にあるのか、実態はどうなのかを質問しました。
厚労省は「失業には労働者の意思という主観的要件が含まれるためモラルハザードが生じるおそれが高い」と断じるだけで、エビデンスをあげません。

あるかどうかもはっきりしないモラルハザードを回避するという口実で、憲法上の勤労の権利(27条1項)や職業選択の自由(22条1項)をないがしろにしていいわけがない。労働者には、労働条件が悪い職場から離職する自由や、希望する仕事を選択する自由があり、失業手当はこれらの自由を保障するためにあるはずです。

私は「憲法上の権利を保障する制度になっていない」と強調しましたが、相変わらず武見大臣は「モラルハザードが起きないよう制度設計しなければならない」と非常に残念な答弁でした。

リ・スキリングは本当に必要な人に

今回の改正案では、「教育訓練やリ・スキリング支援の充実」が謳われています。教育訓練休暇制度も創設されました。
気になるのは、はたして本当に必要な人が利用できるのか、ということ。教育訓練の機会に恵まれなかった非正規雇用労働者にこそリ・スキリングは必要です。「正規は休暇をとってスキルアップ。非正規は放置」では、かえって賃金格差が進むことにならないか、心配です。
 武見大臣は「非正規雇用労働者が正規に比べて能力開発の機会に乏しいこと、女性の方が男性より家事育児との両立等に悩む割合が高いことなど、課題があることは把握しており、非正規雇用労働者が働きながら学ぶことができるよう、柔軟な受講日程など新たな職業訓練を試行的に実施する取組みを行うこととした」と若干希望が持てる答弁でした。 
 
2022年の雇用保険制度改正で、基本手当の国庫負担の見直しとともに、新たな国庫繰入れ制度の導入等が講じられました。そのため、国庫負担割合が「40分の1」に据え置かれることになってしまいました。雇用保険制度発足時は、国庫負担の水準は「4分の1」でした。憲法の勤労権等の保障の趣旨に立ち返るならば、国庫負担の水準を4分の1に戻すべきです。
  

働きがいのある、人間らしい仕事を

質問準備中の5月1日、地元のメーデーに参加しました。5月3日は憲法記念日でした。
国が労働の機会を保障し(27条1項勤労の権利、22条1項職業選択の自由)、就労が困難な場合でも生存権(25条1項)を保障する義務があることをあらためて思い返しながら、質問を組みたてました。

厚労省のホームページは、ILO宣言などを紹介し、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現に努めているとあります(小さくですが)。

この国に住む人たちが人間らしく生きられるように、地味に見える法律も、たいせつに審議していきたいです。