人権問題の解決を先送りにしていいのか/在日外国人無年金障がい者・精神科医療における身体拘束・生活保護受給者の自動車利用
人権問題の解決を先送りにしていいのか
在日外国人無年金障がい者・精神科医療における身体拘束・生活保護受給者の自動車利用
第213回通常国会中、2024年5月30日と6月18日の参議院厚生労働委員会での質問をご紹介します。
在日外国人無年金障がい者の救済を
国民年金法にかつてあった「国籍要件」は、日本が難民条約に批准したことに伴い、82年に撤廃されました。しかし、加入できなかった82年までに障がいを負った場合、20歳未満であれば「20歳前傷病」の措置がありますが、20歳を超えていた場合は対象外とされてしまいました。
一方で、国は、障がい者で無年金となる人に一定の救済策を講じてきました。2004年成立(05年施行)の特定障害者給付金支給法は、会社員の配偶者と元学生を対象にした給付金の支給を認めるもの。会社員の配偶者は86年3月まで、学生は91年3月まで、国民年金の加入は任意で、障がいが認定された時点で未加入であった場合障害基礎年金が受け取れませんでした。そこで救済策が同法で講じられました。しかし、この際も在日外国人の障がい者については附則で「必要があると認められるときは、所要の措置が講ぜられる」としたのみ。必要はあるのは明らかというのに。同法の元となった坂口元厚労大臣の試案では、国籍要件撤廃前の在日外国人も対象にしていたのに、同法は明らかに後退したと国会でも度々指摘されてきました。障害者差別解消法が施行された今日ではなおさら早急に検討すべきです。
2020年11月27日の衆議院厚労委員会で田村大臣(当時)に尾辻かな子委員(当時)が質問したところ、「検討はさせていただきたい」という答弁でした。そこで、2024年5月30日の質問で、私は、その後の具体的な検討状況について質問しました。厚労省は、遡及させなかったこと、特別の救済措置を設けなかったことにつき違憲ではないと最高裁の判断が出ていること、国会で様々な議論があって外国人は対象外になったことなどを踏まえれば、「慎重な検討が必要」であり、「引き続き検討」との冷淡な答弁でした。
厚労省は2023年9月にも院内集会で当事者から要望を受けています。それが厚労省内で共有され施策の検討に役立てられているのか、また、大臣や社会保障審議会年金部会と共有されているのか質問したところ、大臣や年金部会とは共有していない、年金局として把握している、ということでした。年金局止まりとは。全くやる気が感じられません。
新潟市も含む大都市民生主管局長会議は、国に対し、制度上の理由により無年金となっている在日外国人の障がい者や高齢者に対する救済措置について早急に実現することについて繰り返し要望しています。2024年5月30日の参議院厚労委員会で私が1982年以降の自治体からの要望の数について質問したところ、網羅的に回答することは難しいが、直近5年の間では17団体から66件との答弁でした。国が動かないのでやむなく独自の給付金を設けている自治体としても、要望をあげても対応しない国に業をにやしているのではないでしょうか。網羅的に回答することも難しくないはずで、調査をすべきと求めました。
日本政府は、2022年11月、自由権規約委員会の総括所見で、在日コリアンとその子孫を、利用できるはずの支援プログラムや年金制度の利用を妨げている障壁は取り除くべきだと指摘されています。それでも放置するなら、今後も国連から勧告を受け続けることになる。それは大変不名誉なことではないか。国連に対してどのように説明するのか。
武見大臣は、「委員会の勧告は法的拘束力を有するものではない」と居直り、「慎重な検討」と局長と同じ答弁。これでは国際人権基準に背を向けた態度、国際的に不名誉です。
質疑後、朝日新聞から取材を受け、2024年6月7日付朝刊の記事にまとめていただきました。
身体的拘束の時間を限定すべき
厚労省が野村総研に委託し2023年3月に公表された報告書「精神科医療における行動制限最小化に関する調査研究」では、拘束要件の一つに「必要な期間を超えて行われていない」と新たな文言を加え、必要かどうかは医師が判断するのであえて裁量を設けることになりかねず、日弁連も会長声明でこれでは時間的な限定の意味をなさないと厳しく批判をしました。この点厚労省に質問したところ、処遇基準に関する厚労大臣告示についても提言を含む形で報告書が取りまとめられたが、関係者の意見を聞きながら引き続き検討を進めるとの答弁でした。
2024年2月9日の朝日新聞では、「身体拘束、突出して多い日本」という記事があり、9カ国の調査で、身体拘束の実施は日本が実施比率も時間も突出して高いことが示されていました。これも大変不名誉なことであり、身体拘束削減を国策として推進すべきではないか質問したところ、指標が異なる等で単純な比較は難しいという他人事のような大臣答弁でした。いや研究論文をお願いしているのではなく、人権制限を抑制する政策の推進を求めているのです。
2023年10月6日、身体拘束を考える精神医療従事者の会が結成されました。同会の報告によれば、検査や治療を終えるまで身体拘束を行なっている、一時性が守られていない実態にあるとのことです。厚労省は、不適切な身体拘束はあってはならず、都道府県が実地指導の際に身体拘束の状況を確認し、不適切であれば改善を指導するとの答弁でした。しかし、それでは不適切な身体拘束が改善されなかったのですが。
従事者の会が厚労省に対し、身体拘束を最大4時間と告示に明記すべきではないかと要望している通り、一時性の明確化のために、身体拘束最大4時間を厚労大臣告示に書き込むべきではないかと質問しました。
厚労省は一律に上限時間を設けることは難しいのではないかと思うが、丁寧に検討していくということでした。人権という観点が乏しい姿勢、残念です。
生活保護受給者の自動車利用
生活保護受給者の自動車利用の必要性については、度々取り上げてきたところです。
5月30日の厚労委員会では、本年3月21日の津地裁判決を取り上げました。原告は、三重県鈴鹿市で同居して生活保護を利用している母親と息子。高齢の母親は膝の手術で高低差のある場所を歩くのが困難、息子は身体障害2級で難病のため杖をついて少ししか歩けません。バスや電車に乗れず、自働車でしか移動ができないため、保護課も息子の通院のために自働車を保有することを認めていました。
ところが、鈴鹿市保護課は、通院以外の目的での自動車の利用を禁止し、親子に対して、「運転経路」「具体的な要件」などの項目のある「運転記録票」の提出を指導し、親子がこれに従わなかったことを理由に保護を停止したのです。
この保護停止処分について、津地方裁判所は、違法として取り消しただけでなく、鈴鹿市に対し、原告1人あたり10万円、合計20万円の国家賠償の支払を命じる判決を言い渡しました。
問題なのは、鈴鹿市が、その対応は厚生労働省のお墨付きを得ているとしている点です。厚生労働省は、令和4年5月10日付け「生活保護制度上の自動車保有の取扱について(注意喚起)」という事務連絡において、「障害等を理由に自動車等の保有を容認された者について、通院以外に日常生活に用いること」は認められないという考え方を示していることです。
津地裁判決は、生活保護法4条1項が定める「補足性の観点からしても、原告らの日常生活に不可欠な買物等の必要な範囲において利用することは、むしろ原告らが自立した生活を送ることに資するもの」と当然の判断をしています。大阪地裁平成25年4月19日判決が傍論として、通院等のために保有を容認された「自動車を通院等以外の日常生活上の目的のために利用することは、被保護者の自立助長及びその保有する資産の活用という観点から、むしろ当然に認められるというべきである。」としていた判断を理由中で正面から認めたものです。自動車の日常生活利用を認めるように考え方を転換すべきではありませんかと質問したところ、「例外的に自動車の保有が認められた場合でも、原則として認められない資産であるということなどを踏まえて、保有が認められた目的に限って利用されるべきもの」であるとしながら、「障害者の自動車保有に係る取扱いの考え方については改めて整理したい」という答弁でした。
障がいがあって通院のために公共交通機関を利用できない方が、なぜ買い物ではそこにある車を利用してはいけないのか。どう考えても合理的ではありません。
日本政府は2014(平成19)年に障害者権利条約に批准しています。この条約の第20条は、「締約国は、障害者自身ができる限り自立して移動することを容易にすることを確保するための効果的な措置をとる。」とし、この措置には「(a)障害者自身が、自ら選択する方法で、自ら選択する時に、かつ、負担しやすい費用で移動することを容易にすること。」が含まれるとされています。障害ゆえに通院目的での自動車保有を認めた生活保護利用者に対して、日常生活上の自動車保有を認めないのは、条約の20条に違反するといえるのではないでしょうか。
6月18日の厚生労働委員会での質問では、障がい者に限らず、生活保護受給者の自動車保有について取り上げましたところ、大臣から、障がいや病気で通院や登下校に車の使用が認められている場合、買い物等に行くときにその車を使っていけないことになっているが、ここまで杓子定規にすることが公平性に関わる問題であり、省内で検討を求めている、という答弁を得ました。
通りいっぺんではなく、希望がほのかにみえる答弁と受け止めました。