憲法審査会発言メモ(2025年4月16日)
2025年4月16日の憲法審査会での発言メモです。
正式な議事録は、内容が確定次第「国会質問情報」に掲載します。
立憲民主党・社民・無所属の打越さく良です。
参議院の緊急集会制度は総司令部が想定していなかった制度であり、日本側、とりわけ入江俊郎、佐藤達夫らの法制官僚による憲法の「日本化」の象徴的なものでありましょう。
緊急集会について加藤一彦先生は、日本側の意図は帝国憲法「8条と70条が予定する議会活動不能の「非常時」のみを描き、これに対応する規定を憲法に導入すること、一点のみにあった」と述べておられます。しかし、その導入までには幾多の紆余曲折がありました。
日本側はもともと常置委員会構想を以て非常事態に対応しようとしていました。1945年11月2日の第2回憲法問題調査委員会では第8条の改正について「緊急勅令の発布は可能なる限り帝国議会の常置委員会に付議するものとすべし」とされていました。
しかし、日本側の1946年3月2日案では、第76条に内閣は、法律又は予算に代わる閣令を制定することができる旨の規定が提案されました。これは国会中心主義から「内閣を過信する危険な方向に逆行」しており、総司令部側に拒否されました。憲法改正草案要綱が3月6日に発表された後の4月2日の第一回交渉で日本側から衆議院解散の場合には、①参議院が国会としての権限を行うとする案、②国会に置かれる常置委員会が国会の権限を行うとする案が提示されました。その後も曲折を経て現在の54条が形成されました。
緊急集会については佐藤功先生が「両院制の国会に対する極めて特殊の場合の例外的措置」であるとしながらも「もしも著しい国家緊急事態が発生し、その措置のためには立法、予算その他各般にわたる措置が必要であり、個別的にその議案を指定することができないというような場合を考えるならば、おそらくは内閣の請求も、その国家緊急事態の解決のためという大きな枠を定めるのみであつて、その具体的、個別的な措置を包括的に求めるということになるであろうから、そのような場合には、参議院の権限は、その大きな枠の範囲においてにせよ、相当に広範囲に行使されることとなるであろう」と述べておられます。
2023年5月31日の本審査会において長谷部恭男先生は「緊急集会による対応は、これは条文にもありますとおり、限られた期間しか通用しない臨時の、しかも措置です」と述べつつ、「国家の存立に関わるような」事態には「あらゆる考慮要素がくまなく総合的に勘案されるべき」であり、「特定の論点、特に日数を限った規定の文言にこだわって、それを動かし得ない切り札であるかのように捉えて議論を進めるべきではない」と発言されています。
また、土井真一先生は「緊急事態に対応するために、五十四条一項が許容する範囲内で二項により緊急集会の開催を認めることは不合理ではない」と述べておられます。
両氏とも憲法改正を伴う国会議員の任期延長論と比較衡量して現憲法の参議院の緊急集会が優れた仕組みであり、「新たな制度を追加する必要は見出しにくい」(長谷部)という文脈からこれらの議論を披瀝きされています。
その上で土井先生は緊急事態において「参議院の緊急集会は合理的な設計に基づく制度の一つ」であるとされながらも、「重要な政治的アクターがこぞって緊急事態の継続に利益を有することになる仕組みは危険であり、例外的に認められた権限の行使には重い責任が伴わなければな」らないと戒めておられます。これは、佐藤先生、長谷部先生、土井先生に通底するもの、すなわち例外規定の原則化を厳に戒めたものであり、私たちは常に規律されなければならないと考えます。
(2025年4月16日)