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第3回

vol.8_里山の田んぼで本日もクリエイティブに,打越、聴きにいく鴫谷幸彦さん・玉実さん_農家vol.8_里山の田んぼで本日もクリエイティブに,打越、聴きにいく

2人の娘さんたちには田んぼも畑も遊び場です。
興味のままに動き、夢中になって農作業したかと思えば、他の遊びを始め
いま子育てを生活の中心に据えて農業経営をする鴫谷夫妻の、発見の日々は続きます。

すごい雪や不便な暮らしは想定内

打越こちらで暮らしていて困ることはありませんか。

幸彦まあ、生活の不便さはある程度想像してきましたから。2人とも雪のないところで生まれ育っているので、すごい雪を想像してたんです。

打越想像したほどではなかった?

幸彦いや、想像通りでした。すごい雪。同じ上越市内でも海のほうに住んでる方からは「えっ川谷! 大丈夫?」と言われる。でも便利なのがいいなら東京にいればよかったし、お店が遠くても車走らせればいい。生協も来てくれる。それに保存食の知恵がハンパないです、このへんの人は。

玉実あまり買い物に出なくても食べていけることがわかりました。

幸彦ないものは作ればいい、取っておけばいいということを皆さんに教わりました。味噌作ってるし米あるし、野菜は干したり漬けたり冷凍したり。

打越あ、ビールもある。

幸彦それは買ってます(笑)。この地域に、簡易郵便局に併設された小さな商店があるんですよ。そこは絶対に守らなくちゃならないので、皆めっちゃ使います。

打越ネットショッピングをすると配達は来てくれるんですか。

幸彦配達は毎日来てくれますよ。だからポチってもしまうけど、地域の店で買えるものはなるべくそこで買います。ビールがちょっとくらい高くても。

鴫谷幸彦さん・玉実さん。

農業は子どもが遊びにできる仕事

打越4歳と2歳のお子さんがいらっしゃいます。ここでの子育てはどうですか。

玉実とてもいいですよー。子育てする人にはぜひ来てほしいです。

幸彦夏はずっと探検したり一緒に農作業やったり。あとは自分たちで遊びを見つけてます。

玉実子どもがいなさすぎて、皆さん拝まんばかりに子どもを可愛がってくれるんですよ(笑)。
幸彦大声出して大暴れしても全然近所迷惑にならないので、好き放題。幼保無償化で3歳から保育園に入れたけど、去年はあえて入れなかったんです。

玉実こういうところで子どもどうしがどんな遊びをするのか興味があって。正直、イライラすることもたくさんありますが。

幸彦相当イライラするよね。選手交代でなんとかしのいで。それも自営業だからできる。

玉実友だちの話では、リモートで親も子どもも家にいて、親の仕事に当然子どもは手が出せないから「静かに! あっちに行ってて!」となってしまう。その点農業は子どもがやれる要素があります。こちらの仕事が娘たちにとっては遊び。そして「やった」という感じが持てる。それはこの時代にあって得難いことなのかなと。
 
打越うらやましい。

玉実この人たちのように仕事ができたらどんなに楽しいだろうと、こっちも思うんです。

農作業をする4歳と2歳の娘さん。

山の集落でグローバルに生きている

打越お2人とも国際協力に携わり、幸彦さんはウガンダ、玉実さんはドイツとベトナムで活動されました。もう海外に行きたいとは思いませんか?

幸彦行きたいですよ! 地図を見ては「ここに行きたい、あそこに行きたい」と。

玉実でもその「行きたい」という気持ちの中身が昔と違う。暮らしに密着して、農村や農業のことが知りたいです。今なら農業者どうし、建設的な話もできると思うし。

幸彦海外をフィールドにしている友だちも多いんですが、自分は日本の山奥にいても閉ざされた世界だとは思わないです。部屋の隅にいると部屋全体が見えるように、生活の基盤があることで、たとえばアフリカの農村の生活も想像できる。

玉実国際協力に憧れていた私がいま新潟の農村に暮らしている。まったく無縁なように見えますが、じつは自分が思い描いていた国際協力の仕事より、もっと国際協力につながっているという奇妙な自信がありますね。農村での経験もなく現地でコンサルタントをしていたら、向こうの人たちの事情をわからないままだったろうと思います。

打越そのうち農業者の国際交流ができるといいですね。

世界地図を見る2人のお子さん。

自分のところで作っていれば安心感がある

打越ウクライナ危機で世界的に穀物が不足しています。心配するばかりでなかなか何もできないですが。

玉実ほんとに大変ですが、我が家に限って言えば、小麦を作っているので。

打越あ、そうか。

玉実小麦、大豆、お米、どれも自分たちが1年食べるくらいは充分できています。これは安心感につながりますよね。うどんもパンも作ります。こういう時だから、もう少し食料自給率の問題を考えたらどうなのかなと。

打越カロリーベースで37パーセント。国会でもしょっちゅう話題にはなっているのですが。

幸彦急に言われても遅いですよね。もう少し上げようがあると思うんだけど。「米が余ってるから輸出しろ」じゃなくて、足りてない小麦や大豆に補助金を出して農家に作ってもらったほうがいいと思います。他国に攻撃されたり、経済制裁を科されたりしても、食べ物がしっかりある国は強いですよ。

麦畑。

政治家は農に携わる人を増やしてほしい

打越政治には何を期待されますか。

幸彦うーん。基本的には、自分がアクションを起こしてお客様を巻き込みながらやっていく。生産も村おこしも自分の生活も。それははっきりしています。政治家にお願いしたいことがあるとすれば、農家を増やしてほしい。食料の問題も農村の問題も、農家が少なくなったことで起きている。農業が自分がやるべき大切な仕事だという意識をいかに醸成していくか。国は真逆の政策をとってきた。担い手を絞り込んで大規模化しようと。

打越今もそうですね。
幸彦それじゃだめなんです。国は兼業農家を切ってきたから、その言葉を使いませんよね。それで「半農半X」というかっこいい言葉を使ってますが。
打越なるほど。
幸彦兼業農家でいいんです。都市で家庭菜園もいい。国民皆農で携われば農家の気持ちがわかる。皆で考えられる。
玉実人口減で土地問題があり、一方で市民農園が人気ですよね。思いきって、余ってる土地を農地にして皆に少しずつ割り当てたら面白いかも。自給率が上がるかもしれないし。あまりにも農業が遠いものになっていることが問題だと思うので。

打越さく良。

自分の手で作ることをもう少し取り戻そう

打越友だちの弁護士が田んぼを借りていて、誘われているんだけどまだ行けてないんです。やろうかな。

幸彦はまるかもしれない。やってみたら楽しいという人は結構いるはずです。クリエイティブな仕事だから。「農家が高齢化してどんどん少なくなる」って、ほんとに止められない自然現象なのか。違うと思う。ここまで農業が遠くなると、逆に興味持ってくれる人もいるんですよ。

玉実昔の「しんどい、つらい」というイメージがある人には「よく農家になんかなったわねー」と言われますが、こちらは一つ一つが新鮮で、単純に面白いんです。

打越田んぼやってる弁護士もすごく楽しそうで、とれたお米を自慢げにくれるんですよ。

玉実そう、「私が作ったの」って人にあげる喜びがある。自分の手で作ることをもう少し取り戻したら楽しくなるんじゃないかなあ。どの分野でも。自信にもつながるし。

梅を干す。きゅうりをピクルスに。

楽しい自給自足が経済をすこやかにする

打越じつは国会の質問準備で忙しいと毎日コンビニ食だったりするんです。たまに家で作ると、たまらなくうれしい。

玉実でしょう? 自給自足というと、かつての貧しい時代かすごく意識高い系、二極化したイメージがあるけれど、そうじゃないと思います。自分が楽しんでできることを増やすこと。

幸彦自給すると経済が回らなくなるという人がいるけど、逆だと思う。自分たちで作ると、作ることの大変さがわかるし、ものに対する興味がわく。他人任せにしていると、その大切さが見えなくなって、ただサービスを求めるような向き合い方になる。

打越安ければいいとか。

幸彦そうなっちゃう。効率的かもしれないけど楽しくない。楽しいから、この生活をしているんです。

打越ふむ。ところでこのアップルクランブルケーキ……。

玉実私が作りました。うちの小麦の全粒粉で。どうぞ。

打越おいしー。

手作りケーキ。

(おわります)→第1回へ

インタビューを終えて■打越さく良

塩むすびが好きだ。主食を支える方々には頭が下がる。
国会議員になって、日本の食、農村の問題に眉間にシワを寄せて向きあってきたが、 農業が楽しくて仕方ない鴫谷夫妻とお話ししていると、シワが伸びて笑顔になる。
「高いのになんで買ってくださるんだろう」と鴫谷さんは不思議がるが、食を支える人への感謝と敬意を抱ければ、労力に見合った金額を支払ってくれる人がいるのも、希望が持てる。食べものを自ら作れる安心感がある集落での暮らしに、明るい未来を感じた。

〔2022年4月〕

鴫谷幸彦さん・玉実さんと長女の柚希さん。

鴫谷幸彦(しぎたに・さちひこ) 
1977年、千葉県柏市生まれ。東京農工大学農学部卒。青年海外協力隊でウガンダへ。出版社勤務後2012年、新潟県上越市の川谷地区に移住。「星の谷ファーム」で研修。2014年に独立。中高は剣道部、大学は馬術部。
鴫谷玉実(しぎたに・たまみ)
1983年、兵庫県神戸市生まれ。金沢大学で文化人類学を学びドイツに留学。京都大学大学院で地球環境学を専攻、ベトナムの山村で調査・研究を行う。出版社勤務を経て2015年、結婚と同時に川谷地区へ。趣味は山登り。