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第1回

vol.11_私の街に来てくれたアーティストを応援したい,打越、聴きにいく五十嵐奈穂子さん_「KYAF」呼びかけ人vol.11_私の街に来てくれたアーティストを応援したい,打越、聴きにいく

新潟市にある「ゆいぽーと」は芸術活動や青少年体験活動ができる複合施設。
中学校だった建物で、公募で選ばれた年8組のアーティストが滞在制作をしています。
「ゆいぽーと」をもっと盛り上げたいと、アートの好きな五十嵐奈穂子さんはKYAF(きゃふ)を始めました。
アーティストたちとの交流、お手伝い、ごはん会、おやつ差し入れ……。
「アーティストと私たちと街、ともに育っていきたい」という思いで、ゆるく楽しく誠実に活動中です。

 

勝手にアーティストを応援したい

打越五十嵐さんが立ち上げた非公式グループKYAF(きゃふ)は、どういう意味ですか。

五十嵐K(勝手に)Y(ゆいぽーととか)A(アーツ)F(ファンズ FAN/FUN)の略です。ゆいぽーとのアーティストさんをお手伝いしています。

打越いつ始めたのですか。 

五十嵐2020年です。その頃ゆいぽーとに来ていたアーティストさんが新潟のことを生かした素敵な作品を制作したのに、地元の人にあまり知られていなくて、もったいないと思ったんです。「すごーい」と自分が思ったものを他の人にもっと見てもらいたくて、ゆいぽーとのアーティストを勝手に宣伝しようと活動を始めました。

打越アーティストさんはどれくらいの期間ゆいぽーとに滞在されるんでしょう。

五十嵐自主プログラムは1カ月で、招聘プログラムは3カ月です。1か月で成果を出すというのは結構プレッシャーだとも聞きます。
ずっと新潟に住んでいる私は、来てくれたアーティストさんたちにいい活動をしてほしい、いい思い出を作って新潟を好きになってほしい。そして日常のなかでアーティストと交流する楽しさを街のみんなに知ってほしいという気持ちがあって。

五十嵐奈穂子さん。

自分発だから思い立ったらすぐできる

打越手書きのチラシがいい感じです。「KYAFこの頃だより vol.2 気まぐれなぐり書き発行」……これは奈穂子さんが?

五十嵐そうですね。勝手に。自分を主語で書けば誰の許可もいらないし。

打越他の人の決済もいらない。

五十嵐自分が見たものを自分で応援。今ゆいぽーとに来ているおーなりりゅうじさんは潟と暮らしの関係を見つめなおす「里潟プロジェクト」で、潟に捨てられたゴミを拾ってきて漆を塗っています。ゴミがかっこよくなるんですよ。中学生たちとワークショップもしました。鳥屋野潟公園で作品を屋外設置したいということで、今そのお手伝いをしています。

打越へえ。

五十嵐もう一人は小鷹拓郎さん。現実で起こっている問題とフィクションを併せたモキュメンタリーという映画を撮っています。新潟では北朝鮮の拉致問題に関する映画を撮ろうとリサーチしています。

手描きのチラシ。

動画も1人で作ってみた

打越KYAFの紹介動画を拝見しました。あれは何人で作ったんですか。

五十嵐私1人で。人に頼もうと思ったんですけど、頼むには資料を用意しなければならないじゃないですか。資料送ります送りますと言いながら「やばい、まとめられない!」(笑)。結局、編集ソフトをダウンロードして自分でやりました。

打越資料作るより自分でやったほうが早い。

五十嵐すごいローテク(笑)。でも、やってることを動画でまとめておくのはわかりやすくて大事だなと思いました。
KYAF紹介動画はこちら

仕事を休んで制作に来る人たち

五十嵐KYAFは県からの助成が10万円もらえることになったんですよ。助成金って普通は報告が大変ですが、それは自由に使えて明細を出さなくていいんです。その10万円を、ゆいぽーとのアーティストのことに直接役立てたいです。

打越奈穂子さんが使うわけじゃなくて。

五十嵐特に夏冬の金銭的支援がない方へなど。自由に使えるのはありがたいです。

打越アーティストの皆さん、暮らしはきびしいのでしょうか。

五十嵐 著名人、大学の先生などは金銭的に落ち着いた暮らしができていますけど、ゆいぽーとに来るような若手作家さんたちは、アートだけで生活するのは難しい方も多いです。

打越皆さん他の仕事もしているんですか。

五十嵐1カ月滞在の方は大体そうです。アルバイトやお仕事を休んでゆいぽーとに来ているので大変なんですよ。8メートル×12メートルの広いスタジオを使って作品をつくれるというのは貴重な機会ですが。

打越「ここで作っていいよ」以上のサポートはないのでしょうか。

五十嵐新潟市の場合、3カ月招聘プログラムの人には金銭的な補助が若干ありますが、1カ月滞在の自主プログラムの人にはありません。ゆいぽーとスタッフさんが、できる範囲で制作面でのサポートはなさっています。

アートを支える人の雇用問題

五十嵐アート関連は、キュレーターなどアーティスト以外の人たちも生活が不安定です。昔は安定した雇用があったようですが、いまは臨時雇用がほとんどで、芸術祭の期間だけの仕事だったり。皆さん日本中を転々としています。「秋田行ったの? 今度沖縄?」みたいな。

打越文化を支える人たちを支える、ということができていない。政府は、産業の発展に役立ちそうな科学技術には税金を投入する気になっても、人文芸術には「趣味なんでしょ」みたいな気持ちかもしれないです。

五十嵐30代40代の正規雇用が少ないと、知識や経験が抜け落ちていくんじゃないか。若いアーティストを理解しているのは30代40代のキュレーターです。その専門家たちが落ちついて仕事ができないと、美術館でいま生きているアーティストの展覧会が開けなくなる。死んだ偉大な作家の作品もいいですが、この先の未来を見ている人たちに安心して仕事をしてほしいです。

打越いま無名で頑張っている人たちを応援しないと、先細りになってしまいますね。なんとかしなければ。

打越さく良。

アーティストに対して背伸びは無用

打越アーティストと話す時、五十嵐さんはすごく自然体ですよね。変なことを言ったら「わかってないな」と思われないかとか、臆する感じはないですか。素朴なことを言っても大丈夫なのかしら。

五十嵐そこはぜんぜん。むしろ「アートが好き」という人より、何も知らない人と話して通じ合うほうが面白いんじゃないかな。現代アートは人と関わることで作品ができていく人がほとんどです。

打越このあいだ案内してくださったアーティストの榎本浩子さんは、ひきこもりなど痛手を被った人のことを考えながら作っている、と仰っていましたね。こぼれ落ちた人に響くようにと。「高尚な人だけが私の作品を理解できる」みたいな感じではないんですね。

五十嵐榎本さんの場合そうですね。痛みを基本にした作品。そうじゃない人もいる。いろいろです。

新潟市美術館KYAF展での五十嵐さん。

それぞれに違った面白さがある

打越そのどれもが面白い、応援したいという感じなのでしょうか。

五十嵐見たり感じたりするのが好きなので面白くないアーティストさんはいないです。榎本さんは11月3日から水戸芸術館で展覧会があります。出会った人たちが活躍されている情報を見るだけで楽しいです。時には皆で行ってみたり。

打越いいなあ。奈穂子さんはKYAFの他にもいろいろな活動をしていますよね。

五十嵐はい。11月1日から23日まで新潟映像祭が開かれます。水と土の芸術祭でできた映像とか、新潟のコンテンポラリーダンスカンパニーNOISMを新潟の映像作家が撮った作品だとか。ゆいぽーとに滞在した作家さんの作品も上映されます。私が会計をやっている「にいがた映画塾」の紹介コーナーもあって、資料を展示してきました。

家のあちこちにアートがある。

(つづきます)→第2回へ

明後日朝顔プロジェクトのポスターを持つ五十嵐さん。

五十嵐奈穂子(いがらし・なおこ) 1974年新潟県新発田市生まれ。新潟市在住。新潟県立女子短期大学国際教養学部在学中に市民映画館「シネ・ウインド」の会員になる。以来「にいがた映画塾」「明後日朝顔プロジェクト」などさまざまな活動に関わり、2020年にアーティスト支援をする「KYAF(きゃふ)」を立ち上げた。最近は車の移動中に『モモ』『星の王子さま』などオーディオブックを楽しんでいる。