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第1回

vol.13_障がいのある人を地域社会の戦力に育てる,打越、聴きにいく玉木文香さん_一般社団法人パラシュート代表理事vol.13_障がいのある人を地域社会の戦力に育てる,打越、聴きにいく

知的障がい、精神障がいのある人が成人し、地域社会で生きていこうとした時、
さまざまな問題に直面します。
しかし傍で適切に見守る存在があれば、障がい者も着実に働き続けられ、
本人にも職場にもいい変化が生まれる
その実例を、玉木文香さんはこれまでの活動のなかでたくさん見てきました。
障がい者を支援する団体「パラシュート」を新潟市中央区で主宰する玉木さんに、お話を伺います。

障がい者を社会にふわりと着陸させよう

打越社団法人パラシュートはどんな活動をしているのですか?

玉木障がい者の生活支援と就労支援です。利用者は知的障がい、精神障がいの方がメインです。グループホームはいま「皇帝ペンギン」「ワンラブペンギン」「ワンハートペンギン」と3カ所あって、ここで共同生活をしています。そして就労支援事業所「ファーストペンギン」で仕事をします。

打越法人名「パラシュート」には由来が?

玉木企業のプロデューサーをしている友達が考えてくれた名前です。障がい者が準備なしに社会に飛び出したら、地面に衝突してしまうかもしれない。そうならないように、パラシュートを使って安全にゆっくりと地域社会に軟着陸して、希望の道を歩き出そうよという思いがこめられています。

打越ペンギンづくしですね。

玉木「パラシュート」のロゴデザインをお願いしたら、友人のデザイナーが私たちの活動に共感してくれて「極寒の地で寄り添いながらコロニーを守り、たくましく生きている皇帝ペンギンがパラシュートを使って地上に安全着陸する姿」をデザインしてくれました。デザインの説明を受けてとても嬉しく思いました。

玉木文香さん

共同生活をしながら自立をめざす

打越皆さん一緒に住んでいるんですか?

玉木3人をのぞいて一緒に暮らしていますね。自分で生活できる力をここで養って、いずれ卒業してもらうのが目標です。

打越一日の流れはどんな感じですか?

玉木朝は6時に朝食です。全部作って「はいどうぞ」ではなく、パンを自分で焼ける人は自分で焼く、ご飯をよそえる人は自分でよそう。もちろん見守りはいますが、できるだけ自分でできるようにします。身支度をしたら、きちんと身支度できているかスタッフがチェックして、お薬を飲む人には渡して飲んでもらい、体温と血圧を測ります。それから仕事に向かいます。

打越外で働く方もいるんですか?

玉木はい。工場など施設外の作業に行く人は、7時にここを出ていきます。施設の作業所で内職をする人は8時半ごろ出勤です。作業所の仕事は3時半に終わり、寮に戻って夕食の調理のお手伝いをします。施設外で働いた人は職業指導員と一緒に5時半くらいに戻ってきます。6時の夕食後はお風呂や洗濯、皆で団らん。9時にはお部屋に戻って、それからは自由な時間です。DVD見たりゲームをやったりして、就寝ですね。

ごはんはその日食べたいもの

打越職員の方も大変ですね。

玉木規定では7人に1人が要件ですが、うちはもっと配置を細かくしています。食事は、おいしいものをたくさん食べてほしいので宅配やレトルトなどは使わず手づくりでお代わりも自由です。物価高騰も相まってやりくりは厳しいのですが、食事担当職員たちが「美味しい物をお腹いっぱい食べさせたい」と本当に頑張ってくれています。

打越(写真を見て)すてき! ばえるー。玉木さんも一緒に食べるんですか?

玉木たまには一緒に食べられる時もありますが、彼らが寮に戻ってから私が事務所でしなければいけない仕事もありますので、その後各寮に様子を見に行くくらいです。

打越メニューは栄養士さんが考えるのかしら?

玉木その日皆が食べたいと言ったものとか、彼らの体調を考えてそれぞれの寮でメニューが違います。

打越そんな臨機応変に。

玉木年齢がバラバラなので。若い子はお肉が好きですし、高齢の人はお魚がいいと言う。糖尿病、高血圧の人もいれば、翌日肉体労働に出る若者もいます。夜食を作ってあげる過保護な職員までいるんですよ(笑)

打越家庭のように対応するんですね。

クリスマス会の食事。

生活の基本をととのえることから

打越何歳から何歳までの方がいるんですか?

玉木いまは22歳が一番若くて上は78歳。前は18歳もいました。

打越年齢も障がいの特性もさまざまな人が共に暮らしている。支援というのは具体的にどんなことを。

玉木まず生活をととのえることですね。朝ちゃんと起きられる。人にあいさつができる。

打越あいさつですか。

玉木あいさつやマナーを学ぶ機会に恵まれなかった人たちです。パラシュートでは、障がい者のなかでも成育環境にめぐまれず社会に適応するのが困難な人を支援していきたいので、そこからやることになります。

打越なるほど。

玉木ですから当施設を見学なさると驚かれるかもしれません。言葉が荒かったり、愛されキャラとは言い難い人たちもいるからです。

人が人を思いやる場面に立ち会うよろこび

打越でも前に見学させていただいた作業場では皆さん和気あいあいと真面目にお仕事されていましたよ。あれはお正月飾りを作っていたんですか?

玉木はい。あの仕事は1年中あるんですよ。

打越このお仕事のやりがいは?

玉木「好かれたい」とか「感謝されたい」という気持ちは一切ないです。

打越え、そうなんですか。

玉木そのうえで彼らの成長が見える時がいちばんうれしい。人が人を思いやる姿を見るのって、気持ちがいいですよね。それまで自分のことしか考えていなかった人。生きるために自分のことだけで精いっぱいだったのだと思います。そんな人がここにきて人の優しさに支えられ、次は自分が他人のお世話をしたり、ちょっと弱った人を助けたり、自分のものを分け与えたりする場に立ち会えると「成長してくれたな。これが彼本来の姿だったんだ」と思って温かい気持ちになります。

打越うんうん。

玉木人って変わるんですね。他人のことなんか考えられなかった若者が、コロナに感染して高熱を出した高齢者を懸命に介抱してくれてびっくりしました。「こらじじい、薬飲め」なんて言葉づかいはひどいんですけど(笑)、身体を起こして薬を飲ませてくれているんです。本人も感染して一緒に療養していた時のことです。

ペンギンのぬいぐるみが並ぶ

地域のなかで役割をもつ

打越いまは保育園も迷惑施設と言われて反対運動が起きたりしますが、地域との関係はどうですか。

玉木ありがたいことに、いい関係です。ご近所も高齢化して除雪、除草などでお困りなので、積極的にお手伝いさせていただいています。

打越それは助かりますね。

玉木最近うれしかったのは、パート職員募集にご近所の方が応募してくださったこと。「犬の散歩をしていたらここの利用者さんたちがワンちゃんに声をかけてくれて、とてもいい方たちだったのでこんな施設で働きたいと思いました」って。ご近所から感じ悪いと思われてないかとひそかに心配していたので、ほっとしました。

打越よかった。皆さん楽しくお仕事しているんですね。

打越さく良

卒業した後をどう支えていくか

玉木はい、明るく楽しくやってくれています。ただ、最初は生活面をきびしく指導するので「1日も早くここを出たい」という目標ができるのですが、そのうち生活が安定すると楽しくなり、ここを出たがらなくなってしまう(笑)。そこがちょっと問題。

打越 卒業するまでには、どれくらいの時間がかかるものでしょう。

玉木人それぞれですが、だいたい2年くらいかなと思います。ただ「もう大丈夫だ」と思っても、いきなり支えがなくなって一人ぼっちになると失敗してしまう例が少なくないようです。金銭管理が難しいとか、行政の手続きができないとか。なにより、帰った時に迎えてくれる人がいない。今日のできごとを話す相手がいない。それで気持ちがくじけて仕事に行けなくなったりしてしまう。

打越うーん。自立したあとの支援を考えなければなりませんね。
(つづきます)→第2回へ

玉木文香さん

玉木文香(たまき・あやか)
新潟生まれ。一般社団法人「パラシュート」代表理事。グループホーム「皇帝ペンギン」「ワンラブペンギン」「ワンハートペンギン」、そして就労支援事業所「ファーストペンギン」で障がい者の支援に取り組む。好きなものは古いコメディ映画、音楽、ノンフィクションの本。食べ物の好き嫌い、なし(皆で食べればなんでもおいしい)。