新潟県村上市で製材所を営む菅原保さんは、メインの住宅用木材の他に、地元材を加工した商品を開発しています。

「焚きスギ」は焚き付け専用の薪です。
キャンプやバーベキュー、ストーブ用に人気上昇中のこの商品で、菅原さんは福祉作業所との産福連携を実現しました。

そして、5業種の職人が関わる「むすび箸」。
この名前には、山と町を結び、地域の食文化と人を結び、人と人を結ぶものでありたいという思いがこめられています。

どちらも大きな利益が出るというものではありません。
人びとに村上の杉を知ってもらうために、いろいろな人とつながって起こした事業です。

林業の振興、地域経済の活性化。大きな目的のために、まずできるところから。
大きく燃えさかる火も、焚き付けで灯す小さな火から始まるのですから。

焚き付け専用の薪で福祉作業所とコラボ

2020年に発売した「焚きスギ」は焚き付け専用の薪です。もともとは住宅用に使うはずだった木なんですか。

菅原そうです。でも、これは虫が食べている跡がありますよね。住宅用の木材として強度に問題はないのに、見た目が悪いので使えない。それが私はくやしいというか。この木はこの木で、こういう個性があるわけですよ。私はそれを尊重したいんです。それなのにいままで捨ててきたんです。すごく資源がもったいない。

捨てられる木をなんとか生かそうと。

菅原住宅用のスギはきちんと乾燥させているので、とても燃えやすい。それで、火をかこんで楽しむ時間を提供できたらと「焚きスギ」を始めました。火をつける時は、最初は新聞紙か何かにつけて、次に焚き付けと呼ばれる細い木につけて、また次にもっと太い薪に移していくんですが、これは焚き付け専用という、ほんとにニッチなところを攻めてるわけです。

製品にする作業を村上市の福祉作業所に依頼しているんですね。

菅原そうです。浦田の里という作業所でやっていただいています。障がい者の就労支援施設です。

これは利用者の皆さんにすごく人気のある作業だそうですね。

菅原施設の方と相談して、安全に作業できる装置を作りました。そこに端材を置いて、金づちでとんとん叩くと、うまくスパッと割れるんですよ。

スパッと切れるところが気持ちいい。

菅原ストレス解消になるそうです。気持ちがスカッとすると利用者の方が言ってました。

焚きスギ

ネット販売をしない理由

私はアウトドアにはうといんですが、キャンプはいまブームだそうですね。

菅原コロナ禍でますます人気が高まって、このゴールデンウイークも近所のキャンプ場は予約でいっぱいだそうです。「焚きスギ」も、キャンプ用品として認知されてきています。

ニーズが増えているんですか。

菅原増えてきました。新潟市や佐渡からもわざわざ買いに来ていただいています。口コミやSNS、地元の新聞などを見てきてくださるのかな。

ネット販売もしているんですか。

菅原ネット販売は、あえてしていないんです。村上で買っていただきたいので。来てもらえば、交流人口は増えていきますよね。そういう思いで作って、村上で販売しています。今はコロナで、ぜひ来てくださいとは言えないんですが。

なるほど、それは面白いですね。この事業は、利益を出すことより社会的貢献が目的なんでしょうか。

菅原その方が大きいかもしれないですね。いま売れ始めてきて、利益を出そうかとも考えているんです。私もこれまで知らなかったんですが、障がい者の方たちの収入は、こうした工賃でもらう給料と、障がい者年金です。それを聞いて「その金額で生活できないよね」と思ったんです。
もっと働いて稼いでもらって、少しでも豊かになってもらいたい。新潟県の工賃が月平均15000円、村上は10000円で、担当者の方もせめて新潟県平均までもっていきたいとおっしゃっているので、少しでも協力したくて頑張って売ってます。

菅原保さんと打越さく良

木の個性を生かすという考え方

端材の利活用で、障がい者もキャンパーも、生活がちょっと豊かになる。

菅原いま考えてるのが、キャンプ用のまな板です。メスティン(飯盒)に調味料とかまな板をキャンパーは入れるんですけど、なかなかいいまな板がないそうです。うちで作れば杉の香りが楽しめて、いいかなあと。

端材も生かしたいと、菅原さんがこよなく愛する村上の越後杉ですが、どんな特徴があるのですか。

菅原それは、じつは難しい質問です。風土や育て方で杉もいろいろですが、きびしい気候のために、越後杉はすくすくと早くは育ちません。雪の重みに耐えてじっくり育つので、年輪が詰まって粘り強いとは言えます。でも名産地と言われるところにくらべると、やはり劣っているものもあるんですよね。

正直ですね。劣っているものもあるんですか。

菅原村上の林業文化は、職人がよく手入れした質の高い住宅用木材を提供しています。いいものは決してよそに負けません。ただ、越後杉にはばらつきがあります。木材の等級は節、目の詰まり具合、色味、それにアテ、ヤケ、コタンといった欠点などで決まりますが、その基準で見れば劣るものも混じってくる。
しかし、いまは生態デザインという考え方が出てきています。これまで欠点とされていたものを、自然ありのままの個性としてデザインに生かそうという考え方です。

なにを美しいとするか、価値観の問題ですね。大トロだけが鮨ではないわけで。

"村上まつりのポスター

5人の職人魂が結集した「むすび箸」

村上杉で作る「むすび箸」は2016年に生まれました。これも菅原さんのアイデアなんですね。

菅原ホテルのイベントで、杉の丸太でお皿を作ったことがあるんです。その時に、箸を地元の杉で作れば面白いな、と思いつきました。
日本人はかならず箸を使いますよね。人に手入れされた山の森林が水をはぐくんで、食材が豊かになる。その食材を、地元の木で作った箸で、人が三食ご飯を食べる。一連の流れがつながるな、と、ふと思ったんです。
それで、輪島塗で有名な石川県に箸の加工機を見学に行きました。でも高い機械をオーダーしたところで元が取れるかどうかわからない。であれば、手作りでやろうと考えました。もしうまくいかなくても、手作りであれば設備投資もほとんどいらないし、自分たちの味が出せる。

なるほど。

菅原それに賛同してくださった4社の方々とタッグを組んで始めました。

製材業の菅原さんのほかに、木箱職人、塗装業者、折箱職人、印刷業者、とパンフにあります。お箸にそんなたくさんの業者が関わってるとは。

菅原大川屋が製材し、木箱職人が木取りと鉋がけをして、塗装業者が塗装と仕上げをします。贈答用の箱を折箱職人が、パッケージと販促物を印刷業者が作ります。これは、少しでも地域の経済を循環させる仕組みができればなあと思って始めたことです。箸の金額ですので、売上額は多くはありませんが。

皆さん三十代、四十代なんですね。一緒にやってみていかがでしたか。

菅原皆さん職人なので、追求するところがそれぞれ違うんです。私は「この金額設定だから、これで収まる程度でいいですよ」と言うんだけど、「いやこれではだめだ」「面白くない」「人が使うものだから」と、妥協しない。ほんとに意識の高い人たちに恵まれました。

むすび箸

郷土愛は自然にはぐくまれた

皆さんしっかりお仕事されてるんですね。ところで、むすび箸は二種類あって、「結」が1650円で「絆」が1350円。柿渋と蜜ろうワックスで保護して耐久性を高めた「絆」が、無塗装の「結」より安いって、どうしてなんだろう。

菅原「絆」は、二種の天然素材を重ね塗りして強度を持たせています。杉箸は無塗装では折れやすいので。では十分な強度を持った無塗装の箸を作るにはどうするか。目の詰まった丈夫な材料を厳選するしかない。
もともとは端材を利活用しようという考えだったんですが、そうはいきませんでした(笑)。それでも無塗装の箸が作りたかったのは、杉そのものの香りがするから。それを私は大事にしたかったので。

材料を選ぶのはどなたが。

菅原私がします。丸太の白い部分は白太(しらた)、真ん中の赤い部分は赤身と言って、赤いほうが耐久性があるんです。でも赤身も真ん中にいくにつれて目の間隔が広がってくるので、目の詰まったきわどいところを選んでいる。それで、どうしても高くなってしまう。

ほう。でもお話を聴くと高くない気がします。地域の福祉、経済の循環などに問題意識をもちながら、商品が軽やかで素敵ですよね。ほんとに村上愛が強い菅原さんですが、他の場所に住みたいと思ったことはないのですか。

菅原県外に行きたいとは思わなかったです。私の仲間で関東の方に行った人たちも、村上に半分以上帰ってきました。村上には、村上大祭という祭りがあって、県外に住む人たちもその祭りには帰ってくる。祭りがあったからこそ郷土愛みたいなものがはぐくまれたのかな、いま思うと。外に行った人も、たぶん心の底に郷土愛はあるんじゃないかな。
そういう思いで地元に帰ってきたり、地元のものを使ったりということが増えていけばいいよな、と思います。

 

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家の前に立つ菅原さん

菅原保(すがわら・たもつ)
1987年、新潟県村上市生まれ。中学高校時代はバスケットボール部。
県内の大学で経営情報学を学んだのち、銀行勤務を経て家業の大川屋製材所に入る。
2021年1月より同社代表取締役社長。趣味はジョギング、家族や従業員と楽しむバーベキュー。
大川屋製材所