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第213回国会 育児介護休業法改正案(5月23日)

ケアする人もケアされる人も尊重する政治―第213回国会 育児介護休業法改正案―

これも「異次元の少子化対策」?

5月23日、育児介護休業法等改正案について質疑をおこないました。
前進はありますが、残る課題もあります。
そもそもこの改正がいわゆる「異次元の少子化対策」の一環、ということに引っ掛かります。少子化は、個人個人が抱える困難を軽減し解消してこなかった政治の結果。政治は、人口減少に大慌てするのではなく、ライフスタイルの選択に中立で、困難に直面する方々を支えるものでなくてはなりません。

たとえば、いま家事育児介護等の家庭内の無償労働を担っているのは、もっぱら女性です。そのため時間外労働が前提とされる正規労働者として働くことや、子どもを産み育てることをあきらめる人がいます。そういう構造こそを政治は問題にしなければならないはず。

ところが、育児介護休業法にはその視点がありません。
育児や介護などのケアを女性ばかりが担ってきたことは全くスルー。今なお、家事育児介護に費やす時間は女性が男性よりずっと長く、育児休業取得率、取得日数は圧倒的に男性が女性より低いのに。
なんでこんなにくっきりとした差があるのか?
私は男女の収入格差が一つの要因だと思います。

性別による収入格差は構造の問題

男女の収入差があると、男性ではなく女性が休んだ方が経済的には合理的になってしまう。カップルの「希望」に任せていたらこの格差は変わりません。育児などケアへの関与の男女差を解消するには、まず男女の賃金格差を解消すべきではないでしょうか。

これに対し、厚労省は、「従業員301人以上の企業を対象にした男女間の賃金差異の数値の公表の義務付けや、差異の要因分析、改善に向けたアドバイスなど事業主に対するコンサルティング事業を行っている」という答弁でした。

生ぬるいですね。性別に関わらず仕事もケアも担い両立できるようにすることは、憲法上の要請です。「生ぬるい政策にとどまらないように、法の理念に、男女差別の解消や平等の実現を目指すと明記すべきではないか」と武見大臣に質問しましたが、大臣は、「育介法の趣旨は、子の養育を担う労働者の福祉増進であり、男女差別解消などとは違う。そちらは均等法や女性活躍推進法。意識改革にも取り組む」という答弁でした。
うーん、そもそもキモはここ、と丁寧に説きほぐして質問したのに。意識の問題ではなく、賃金格差など構造の問題なんですけど。引き続き問わねば。

雇用における性差別は、自然現象ではなく、構造が生み出すもの。だからこそ、政治が変えようと思えば変えられます。
1987年の均等法施行から37年。この間、共働き夫婦は増えましたが、圧倒的にケアの時間は女性が担っています。また一貫して男女の収入格差があります。

性差別を許容する「社会通念」

困難な中でも、差別に抗う方々には心から敬意を表します。
5月13日、大手ガラスメーカーの子会社の社宅制度や賃金をめぐる男女差別について争われた訴訟で、東京地裁は原告の一般職の女性に対し、約380万円の賠償をめぐる判決を言い渡しました。
この会社には家賃最大8割補助する借上社宅制度があるのですが、この制度を利用できるのは総合職に限られ、一般職には住宅手当のみで、両者間には最大24倍ほどの格差が生じていました。
総合職にのみ社宅制度の利用が認められることについて、被告会社は、総合職である営業職の採用にあたって他社との差別化のために社宅を設けている、営業職には転勤があることを理由としていましたが、実際には転勤していない総合職や営業職でない人も社宅制度を利用していました。
また被告会社は総合職一般職などに分けて雇用管理するコース別雇用管理制度を導入していますが、総合職は過去1名を除き全て男性で、一般職は1名を除き全て女性だったとのことです。事実上男性従業員のみに適用される福利厚生の措置として社宅制度の運用を続けていたとして、判決は賠償命令を言い渡しました。

均等法7条の間接差別を認める初の判決と言われます。しかし、なお性差別の認定は非常に厳しい。東京地裁のこの判決も男女の賃金差別を認めませんでした。
均等法が差別解消につき実効性がないのは、行政解釈が引き起こしていることでもあります。すなわち、「性別を理由として」と「差別的取り扱い」の定義について、厚生労働省の通達では、「差別的取り扱い」について、社会通念上許容される限度を超えて、一方に他方と異なる取扱いをすること、としています。性差別を許容する社会通念こそが問題なのに、社会通念上許容される限度を超える場合のみ差別的取扱いとして認めてしまうなら、男女差別を許してしまうことになる。この行政解釈は変えるときではないか、という質問に対し、大臣の答弁は実態とかけはなれたものでした。

「子持ち様」? 分断を生まないためには

仕事と育児介護の両立の最大の障壁は長時間労働です。両立支援をいくら掲げても、長時間労働が評価されるような職場では、女性の多くが妊娠出産で「とても無理」と復帰をあきらめてしまいます。それを厚労省がよく言うように「希望に応じて」と言っていいのか、疑問です。

両立支援策が職場に分断を生んでいる面もあります。
「子持ち様が『お子が高熱』とか言ってまた急に仕事休んでいる。部署全員の仕事が今日1.3倍くらいになった」、2023年11月X(旧ツイッター)ユーザーがそんな投稿をしたところ、表示回数が3,000万回以上になり、賛否両論が巻き起こりました。

「子持ち様の穴を埋めるために独身女が働かざるをえなくなる」といった投稿もあったそうです。政府が少子化対策を強調することで、子育て世帯だけが優遇されている、ライフスタイルに中立的でないという反感を広げているようでは、いくら「異次元の少子化対策」、「子育てに優しい社会への機運醸成」と掲げても逆効果。分断せず、誰もが困難を抱えないようにする方策が必要です。
誰もが長時間労働をしないですむ職場にしなくてなりません。そうなって初めて、ケアを担う女性も、原職復帰を希望できるようになると思います。

真面目な人を介護離職に追い込まない

 参考人質疑(2024年5月23日)においてN P O法人となりの介護代表理事の川内潤参考人から、職場から両立支援制度の情報を受けていても介護離職する方々が多いデータが示されました。
改正法案では従業員から介護に直面した旨の申し出があったタイミングで、事業主は両立支援制度について個別に周知・意向確認することの義務化などを盛り込みました。しかし、それで介護離職は止められるのか、心もとないです。
どうも、責任感がある人こそ自分が頑張らねば」と思いつめてしまうようです。川内参考人が指摘されるように、「子どもが親を介護するのが親孝行」として家庭責任を強化する言説が未だ根強いけれども、ケアする側にもケアされる側にも酷なことになる。専門家に任せる提案をするなど、家庭責任を推奨しないキャンペーンこそ必要ではないでしょうか。

 厚労省は「介護休業は法律上介護の体制を構築するための期間だと認識している労働者が未だ3、4割にとどまり、介護休業を利用した中でも排泄など負担の重い介護を自ら行った方こそ離職する傾向が高いことを把握している。女性に偏りがちということも改善する必要があると考えている」と返答。今回の改正も踏まえ創意工夫したいとのことでした。

ひとり親家庭も、さまざまな困難を抱えています。配慮する必要性について事業主に示すべきではないかという質問については、「ひとり親家庭など様々事情に対応できるように、労働者から個別の意向の確認とその意向への配慮を事業主に義務付ける。さらに個別の意向に配慮するに当たり更に望ましい対応として、ひとり親家庭の場合で希望するときには、子の看護等休暇等の付与日数に配慮することなどを指針で示す」との答弁を得ました。

「親亡き後」の障がい者は

今回の法改正では働き手の「個別の意向確認と配慮」が義務化されました。このことが「生きる希望になっている」と、障がい児及び医療的ケア児を育てる親の会代表・工藤さほ参考人はおっしゃいます。しかし工藤参考人は「親亡き後」の心配を繰り返してもおられました。
個人の尊重を掲げる憲法のもとでなお、「親亡き後」を心配せざるを得ない。政治の貧困を情けなく思いました。
工藤参考人によると、障がい児及び医療的ケア児を育てる親たちは、親亡き後の子の経済的な備えも考えて働く必要がある、しかし現行の支援制度を使い果たしても、働き続けることが困難、とのことでした。

質問準備にあたり、障害のある子どもを親が殺害した裁判事例を分析した田中智子先生の論文(「障害者家族に課せられるケア責任」武井寛・嶋田佳広編著『ケアという地平 介護と社会保障法・労働法』日本評論社、2024年所収)を読みました。
こうした殺人事件については、「無責任な親」とか「母性の喪失」と言われがちですが、むしろ「ケアが十分できない」ことに悲観して、子どもを殺し自分も死んで責任を取ろうとしてだと分析されています。
福祉サービスに繋がってはいても、ケアラーの病気や加齢への対応が不十分だったことも伺えました。痛ましいです。

厚労省に分析と対応について質問したところ、障がい者の高齢化を背景に「親亡き後」は課題であり、それを見据えてグループホームや緊急時の受入れなどの対応を行う地域生活支援拠点等について令和6年度から市町村における整備の推進を努力義務としたこと、障害福祉サービス等報酬改定において緊急時の重度障がい者の受入れ機能を充実するなどしたことなどの説明を受けました。
私としては、親が背負いきれなくなってからの支援では親の負担は過重なままになってしまうと思うので、引き続きこの課題も取り組みます。

グループホームは重度の人を受け入れているか

65歳未満の知的障害者の9割が親と暮らし、多くが重度知的障害者だということです。グループホームはむしろ軽度の方を受け入れていて、重度は受け入れられず、親も高齢となって老障介護になっていると地元では聞きます。厚労省に質問したのですが、把握しているかどうかには回答がなく、報酬改定で重度障害者へのサービスに配慮したという答弁でした。

新潟県立大学准教授の西村愛氏が2024年5月15日付朝日新聞で、親と一緒に暮らす知的障がい者がどのような生活を送っているか、親が亡くなった後も地域で生活を送ることができるのか。困難ならどのようなサービスが必要なのかを厚労省が追調査するべきだと提案していました。
厚労省は「個別の地域ごとに実情が異なり、地域の実情に応じた体制の整備を進めることが重要であり、厚労省としては、各自治体が策定する基本方針、基本計画にあたり留意すべき事項を示している」とのこと。
うーん、「地域の実情を踏まえて」と言えば聞こえがいいですが、住んでいる地域によるサービス格差に甘んじろということになりかねない。これまた大きな問題です。せめて調査すべきです。

知的障がい者自身の思いも受け止める支援が必要です。支援サービスに知的障がい者自身の思いを反映する仕組みが必要ではないかと伺ったところ、平成28年度に障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドラインを策定したり、令和6年度の報酬改定で、サービス担当者会議や個別支援会議に障がい者本人の参加を原則とし、本人の意向等を確認することを盛り込んだこと等をご紹介いただきました。
ガイドラインは活用されているのか等、今後確認していきたいです。

附帯決議を当事者に喜んでいただきました

 育児介護休業法改正案は同日全会派が賛成しました。11項目の附帯決議
も全会派賛成。なお、衆議院の附帯決議は、7項目。参議院は、衆議院にはなかった項目や言葉も入れて、よりケアラーにもケアされる側も支えられるようにきめ細やかになったと思います。以前書いた通り(「地味な調整という仕事」)、附帯決議の調整も与野党理事の腕の見せどころです(キリッ)。

 たとえば、参議院「六」の後段は衆議院にはないところです。これで、より短時間勤務制度の期間延長や子の看護等休暇制度等の利用可能期間の延長が取れやすくなりますように。「七」も衆議院にはなく、私が質問して答弁を得たところ。「八」も、長時間労働の是正なくして原職復帰は希望できない、それも男女問わず是正しなくてはならないと粘って得た参議院での項目です。「九」には、衆議院にもあった前段に加えて、配転命令についての後段も入れられました(本当は労働者の希望なくして配転命令なしとしたいところですが)。「十」「十一」も、衆議院にはなかった参議院オリジナルで、当事者にとって朗報と受け止めていただきました。
メディアを賑わさなくても、こうしてコツコツと実務を改善していく。当事者には大変希望になる。この仕事の醍醐味です。