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第3回

vol.13_障がいのある人を地域社会の戦力に育てる,打越、聴きにいく玉木文香さん_一般社団法人パラシュート代表理事vol.13_障がいのある人を地域社会の戦力に育てる,打越、聴きにいく

「家族の絆」はいつも美しい?

打越「ささえあう家族の絆」などと言われますが、私は弁護士としてDV被害者の支援をしてきたので、家族の絆が怖いものになる場合を見てきているんです。

玉木わかります。

打越障がいがある子どものために、配偶者に暴力をふるわれても「ここで頑張らなければ」と耐えている人もいました。誰もが暴力や虐待を我慢しないで生きられる社会にしなければ、とほんとうに思います。悲しいことに、障がいを持つ子どもを殺害して無理心中をはかる事件が毎年起こる。「私が面倒をみなければ」と抱え込みすぎるのは危険です。美談にしてはいけない。

玉木そうなんですよ。私は福祉サービスの仕事をしているので、他人が関わって社会の中で生きるのが当たり前だと思っているのですが、それを知らずに家庭で抱え込んでいる人が多い、というのが実感です。高齢者介護もそうですね。

打越抱え込まなくていいんです、と知らせるにはどうしたらいいんだろう。

玉木まずは地域で困っている人たちを把握できるようになって、そこから専門のサービスにつながれたらいいですよね。

打越SNSなどで発信してくださっている方もいますが、届いてほしい人のところになかなか届かない。

打越さく良

人生のおわりに知的障がいと認定された人

打越障がいについても、もっと広く理解されていればと口惜しくなることがあります。テレビで報道されていたのですが、万引きを繰り返して人生の40年ほどを刑務所で過ごしてきた天涯孤独な男性がいました。この人は最後に69歳で出所して、そこでようやく知的障がいと認定されたそうです。

玉木もっと早く必要なケアが受けられていれば、別の人生があったはずですね。

打越それがなかったために「万引き→裁判→刑務所」という回路を繰り返してしまった。

玉木それで40年間刑務所に。一般社会に居場所がなくて、自分を受け入れてくれるのが反社会的な集団だけだったら、そこを頼ってしまうでしょうね。

打越障がい特性を理解して社会と橋渡しをしてくれる存在は、本人、事業所はもちろん、社会全体にとって大切だと思います。

働き続けるために側にいる

玉木パラシュートではグループホームと就労継続支援B型事業所を運営していますが、この他に業務連携をしているPENGUIN@WORKという会社があります。そこでは社長の田中が、雇用継続のために企業と障がい者の間で相談や指導に当たっています。職場というものが理解できない、礼儀を知らない、上司に注意されたら心折れる……そんなことで仕事をやめてしまわないよう、つきっきりで指導するわけです。

打越雇用すればめでたしめでたし、ではない。問題解決し続けないと。そのために側にいる存在なんですね。

玉木コワモテのおじさんなんですけど。

打越田中さん。じつはさっきから気配を消して部屋の隅にいらっしゃいます。自己紹介をお願いできますか?

田中私はもともと土木建設業界の人間でした。障がい者の方の労働力を建設業界に持ってこようという立場だったんです。ただ、そこで自分ができる範囲は限られる。人生の残り時間を考えた時に、スタンスを変えて、彼らの側でやっていこう、と決めて福祉の世界に来ました。

部屋の隅にいた田中さん

優等生じゃなかったことはメリット

打越玉木さんと田中さん、なんか絶妙なコンビネーション。

田中建設業界はヤンチャだった人が多いですが、自分も若い頃はけっして品行方正ではなかったんで(笑)、社会からはじかれてきた人の気持ちは理解しやすいです。

玉木カタギですよ。念のため。

打越あはは。

玉木田中はこの面相ですし、真剣に怒る時は怖いです。でも利用者は「自分が頼るべきはこのオヤジだ」と思ってる。「この人は自分のことを守ってくれる、絶対に裏切らない」と信頼してるんです。二十代後半の利用者たちが、この人にきゃっきゃ言いながら抱きついてプロレスごっこしてるのを見ていると「ああ、いいなあ」と思います。田中の誕生日に皆でこっそりプレゼントを用意したりね。

打越おお、愛されてる。

田中さんと利用者たち

悪習慣を減らすには世界を広げること

田中うちの利用者たちは、ほんとに狭い世界で生きてきたので、新しい世界に踏み出すことが苦手なんです。いつも不安を抱えている。孤独です。だから依存症だった人もいます。ギャンブルやらゲームやら。

打越そうですか。

田中いまは大丈夫になりました。でも一切やらないわけではない。考え方をちょっと変えるんです。「仕事をしたら、パチンコに行けるぞ」というように。じっさい、お金を得ないとギャンブルはできないので。新しい考え方を植えつけるには時間がかかりますが、根気よく。

玉木いきなり全面禁止にしたら反発してしまう。ここでもパラシュートを使って軟着陸をめざします。「仕事をがんばったから、ごほうびに少しパチンコだ」と。

田中世界を広げて、他の趣味を持つことも大事です。

玉木お休みの日はかならずパチンコに行っていた人が、うちの職員が釣りに誘ったり、イオンに買い物に行こうと言うと、そっちに行くんですよ、やっぱり。外食をしたことがない人もいるので一緒に外食に行ってお腹いっぱいになって帰ってくる。また頑張って働いてみんなで出かけたいと思う。ささやかな幸せを楽しむ笑顔を見ると、私も幸せな気分にさせてもらえます。

田中旅行に行ったり、異性のいる場で交流したり。楽しいことは他にもあるんだと伝える。それを知らずに育っているので。 

玉木ゲームの「ウマ娘」にはまって高額の課金を抱えた人もいました。彼は「じゃ、本当の馬が走ってるところ見に行こう」と言って競馬場に連れ出しました。

打越え、競馬?
 
田中100円の馬券を1枚買って好きな馬を応援する。外は気持ちがよくて、飲食コーナーで好きなものを食べて、グッズを買って帰ってきました。これも彼らには人生初の体験です。戻ってからも興奮冷めやらず「明日からまた頑張って働きます!また連れて行って下さい!」と言ってました。

打越なるほど、ずっと安上がり。毒をもって毒を制す、じゃないけど。

田中興味を他のものにそらす。否定するのではなく。

人には可能性がある

打越これからやりたいことは何ですか?

玉木いまやっているのは弱い人たちのお手伝いです。ほんの少しのことでしかないんですけど、一人でも多くの人のお手伝いをしたいなと思っています。全ての人に秘めた可能性があると思っています。ささやかでいいので幸せを感じて欲しい、前を向いて進んで欲しいのです。

田中除雪作業で、塩化カルシウムを配る仕事をしたことがあります。その時に、路上でお年寄りが動けなくなっているのをうちの利用者が見つけた。「あのおじいちゃん、おかしい」。失禁、脱糞して動けなかったんです。皆通りすぎて誰も助けない。それを見たうちの利用者が、ためらわずにびしょびしょのお年寄りを抱えて、安全な車庫に連れて行ったんです。救急車が来て、皆が去ったあと、彼は自分の服に着いた排泄物を見てけらけら笑っていました。

玉木人を助けるなんて、考えない子だったのにね。「助けよう」と思えて、適切な判断と行動ができた。
いつも彼らの純粋でひたむきな姿に感動させられています。彼らと一緒に私も成長していると実感できます。

田中教えてあげればそこまでできる人たちです。

打越いい話だなあ。いつか私も利用者の皆さんと外食に行きたいです。

玉木ぜひ! 
(おわります)→第1回

〔2023年10月〕

玉木さん、田中さん、打越

インタビューを終えて■打越さく良

弁護士として困難を抱える人の支援をしてきました。いま議員として、困難を抱える人を支えるものになるよう法制度をチェックし提案することに、やりがいを感じています。「何でやりがいを感じるの」と聞かれても、「感じるから」というほかありません。
長岡の介護者の集いで初めて会ったときすぐ意気投合した玉木さんも、同じよう。障がいのある人が地域で働き、暮らしていけるように支援する。苦労もあるけれど、田中さんたちスタッフとビシッとタグを組み、楽しそうです。
厚労委員会の一員である私、福祉現場の疲弊が気になり、眉間に皺を寄せがちですが、「〜ねばならない!」と深刻な顔でいるばかりでなく、そのやりがいにも思いを馳せ、きめ細やかに手当する政治をしたいです。

玉木文香さん

玉木文香(たまき・あやか)
新潟生まれ。一般社団法人「パラシュート」代表理事。グループホーム「皇帝ペンギン」「ワンラブペンギン」「ワンハートペンギン」、そして就労支援事業所「ファーストペンギン」で障がい者の支援に取り組む。好きなものは古いコメディ映画、音楽、ノンフィクションの本。食べ物の好き嫌い、なし(皆で食べればなんでもおいしい)。